北原病院グループ(KNI)、医療などの事業開発・運営を行う企業Kitahara Medical Strategies International(KMSI)、NECは7月9日、事前に登録された患者の情報を医療機関に提供するシステム「デジタルリビングウィル」の実証を行っていると発表した。本人確認にNECの生体認証「Bio-Idiom」を用いているという。
実証は、2018年3月に開始したKMSIのサービス「北原トータルライフサポート倶楽部」の会員を対象に、会員の情報を医療機関へ提供することによる業務への効果を検証する。同サービスでは、会員の医療情報・意思情報・生活情報をもとに生活全般を支援しているという。
国内では高齢単身者が急増しており、KNIの北原茂実理事長は「2030年には都内世帯の約30%が高齢単身者になるという。実は、高齢単身者が自宅で意識を失った場合、大半の救急病院が受け入れを拒否している。既往症が分からなかったり、承諾書を書く家族がいなかったりすることが背景にある」と実情を紹介した。
また、医療機関が高齢単身者を受け入れた場合でも、検査や治療には家族の同意を得る必要があり、医療の提供の遅れや医療従事者の多大な業務量が課題となっているという。家族が離れて暮らしている場合は、当事者である患者の希望に沿わない医療が提供されることもあるといい、こうした現状を踏まえて今回の実証に至ったとしている。
実証への参加に同意した北原トータルライフサポート倶楽部の会員は、認証情報と既往症や服用している薬などの情報、救急搬送受け入れ時の治療における意思などを事前に登録する。救急搬送された際は、通常の本人確認に合わせて生体認証を実施。これにより迅速かつ適切な治療や、患者の意思を尊重した医療の提供、医療従事者の負担軽減が可能になるという。3者の役割は、KMSIが情報管理、KNIが医療行為、NECが生体認証の提供・ホスティング型プライベートクラウドの用意だ。
(出典:KNI、KMSI、NEC)
なお、認証で利用するBio-Idiomは、NECが有する顔、虹彩、指紋・掌紋、指静脈、声、耳音響の生体認証を総称したサービス。今回の実証では、顔・指静脈・指紋の認証を行う。複数の部位を認証することで、認識率が向上するとしている。
3者によると、この実証は医療の事前同意や生体認証、救急医療での生体認証の活用、病院や企業間の個人情報共有を行うことから本来、医療法や個人情報保護法に違反していないか確認を重ねる必要があるという。だが、KMSIが2019年6月に新技術やビジネスモデルを用いた事業活動の促進を目的とした「新技術等実証制度」の認定を取得したことで、今回の実証が可能になったとしている。
実証期間は2020年6月30日までの1年間で、まずはKNIで実施し、その後は八王子市内の提携医療機関に拡大することを検討している。旅行先など出先で倒れた場合に関しては、他の病院との情報連携について本人があらかじめ同意していれば、救急搬送先の病院に情報を提供するという。