過去記事「デジタルトランスフォーメーションとは何をすることなのか」では、デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みは大きく2つに分けられ、1つは具体的なDXに関わる活動であり、もう1つはDXを推進するための環境整備とそれに向けた企業内改革だと述べました。今回は、後者のDXを推進するための環境整備に関する国内企業の現状に関する調査結果を紹介します。
DX推進に向けた環境整備の成熟度とは
デジタル技術を活用した業務変革やイノベーションへの取り組みは、従来の業務プロセス改革と異なり、企業の根幹に関わる多岐にわたる変革が求められます。ITRでは、DX推進に向けた環境整備を「意識」「組織」「制度」「権限」「人材」の5つの分野で整理しており、DXに向けた環境が全社的に整備され、社内の誰もが意識することなくDXの実践的な取り組みが実施できる状態をレベル5とし、6段階の成熟度モデルを設定しています(図1)。
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5つの変革分野とその成熟度とは
今回の調査では、「意識および認識の変革」「組織体制の変革」「人材・スキルの変革」「制度の変革」「権限・プロセスの変革」の5つの分野にそれぞれ10個の質問を設け、それぞれの分野でのDXに向けた環境整備や企業内変革の取り組み状況を調査しました(図2)。
図2.DXに向けた企業内変革分野ごとの取り組み状況:2019年6月調査(出典:ITR)
それぞれの分野の回答を前述の0~5までの6段階の成熟度に沿って集計しました。製造業と非製造業に分けて集計しましたが、両者で大きな違いはないものの全ての分野において非製造業はわずかに高い成熟度を示しました。
5つの分野の中では「意識および認識の変革」に関する成熟度が最も高くレベル3の「DXの重要性への認識が組織や階層を超えて広まりつつある」に達しました。「組織体制の変革」および「人材・スキルの変革」は、レベル2と3の間に位置しています。一方、「制度の変革」「権限・プロセスの変革」の成熟度は低くレベル2程度にとどまりました。DXの重要性や自社における必要性については、経営者、事業部門、IT部門などに広がってきているものの、制度や権限・プロセスといった従来の社内の枠組みを変革するには至っていないという状況を読み取ることができます。
全般的な成熟度はレベル1から3
次に、5つの分野の回答を全て積み上げた全般的な成熟度の分布を見てみましょう(図3)。まず、DX推進のための企業内の変革が進み、誰もが意識することなくDXを推進できる環境が定着しているレベル5の企業は、全体の6%に満たない結果となりました。また、全社的な環境整備が取り組まれ、具体的活動が広がってきているレベル4の企業も10%程度と非常に少ない結果となりました。一方、必要性も認識されておらず、全く何も着手されていないレベル0の企業も7.2%と非常に少ない状況といえます。
全体の4分の3以上を占める企業がレベル1(初期)からレベル3(部分的整備)の間に位置していることが明らかとなりました。すなわち、DX推進のための環境整備について、何らかの取り組みを開始しているものの、社内の一部の部門など局所的な活動にとどまっていたり、一過性のプロジェクトに終わっていたりしていることを意味します。
図3.DX推進に向けた環境整備の全般的な成熟度:2019年6月調査(出典:ITR)
ITRでは、約100問の選択式評価項目に記入することで、自社のDXに対する環境整備の成熟度がどの程度であるかを把握することで、強化・改善すべき点を明らかにするセルフアセスメントを実施しています。自社のDX推進における方針策定の際に、まず自社のポジションを把握することが有効です。成熟度を一足飛びに高めることは困難であり、ここで示した5つの分野における不断の変革を実現しながら階段を一段ずつ上るように環境整備を行っていくことが求められます。
- 内山 悟志
- アイ・ティ・アール 会長/エグゼクティブ・アナリスト
- 大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任しプリンシパル・アナリストとして活動を続け、2019年2月に会長/エグゼクティブ・アナリストに就任 。ユーザー企業のIT戦略立案・実行およびデジタルイノベーション創出のためのアドバイスやコンサルティングを提供している。講演・執筆多数。