凸版印刷は9月6日、東京理科大学(東京理科大)と共同でLPWA通信規格「ZETA」(ゼタ)を活用して熱中症リスクを表示する共同研究を開始すると発表した。気象データから計算される体感温度指標と個人属性や環境情報を組み合わせ、個人に合わせた熱中症リスクをリアルタイムに表示するサービスの開発に取り組む。
ZETAは、IoT向け無線通信LPWA(Low Power Wide Area)の一つ。中継器を多段に経由するマルチホップ形式で通信するため、他のLPWAより地局の設置が少なくて済み、結果として低コストで運用することが可能となる。
共同研究の開始に先立ち、両者は2019年7~9月末までの間、東京理科大キャンパス内とその周辺において、実証実験を実施している。東京理科大理工学部土木工学科の仲吉信人准教授が研究する可搬型熱中症リスク評価センサーとZETA通信の連動性確認、今後の製品開発・サービス化に向けた基礎データの収集が目的だ。
共同研究では、可搬型熱中症リスク評価センサーを用いて、気象データ(気温・湿度・風速・日射・輻射熱)から計算される体感温度指標と個人の属性(年齢・性別・着衣量・活動状況)、所在する環境などの情報を組み合わせる。これにより、従来の気象データによる熱中症リスク測定では考慮されていなかった個人に合ったリスク表示が可能となる。
また、移動可能なセンサーによるデータ取得とZETAの特徴である中継器によるマルチホップにより、LTEの電波が届かないエリアでも通信環境を延長することが実現する。これにより、従来は取得が難しかった市区町村より細かいエリアでも、熱中症リスクのデータが取得できるようになる。
ZETAを活用した熱中症リスク表示サービスの概要(出典:凸版印刷)
この取り組みの背景について凸版印刷は、地球温暖化の影響により熱中症のリスクが増大していることを挙げる。熱中症リスクの測定には、定点での気象情報に基づいた表示などがあるものの、個人の行動パターンや属性、地面からの距離、周囲の環境によっても熱中症リスクの度合いは異なるため、個人の状況を考慮したリスク評価や、より細かいエリアでの測定ができるサービスが求められているという。これを受けて凸版印刷は、東京理科大とともに熱中症リスクを即座に表示するシステムの開発を目指し、共同研究を開始したと説明している。
共同研究における両者の役割は、凸版印刷がZETA通信環境の整備・サービス化に向けたアプリケーションの開発、東京理科大が可搬型熱中症リスク評価センサーの提供・取得データの分析・熱中症リスクガイドラインの策定・実証フィールドの提供だ。
両者は共同研究を進め、将来的に自治体などとの実証実験にも取り組むことを検討している。そして、2020年度中に凸版印刷によって販売開始することを目指しているという。