教育現場のIT環境について、これまで学校の現状や、教育ITでも一般的なシステム導入などと同様に「ヒト」「モノ」「カネ」が重要という話をしてきた。特に前回は「ヒト」にフォーカスし、数十年前とは比べ物にならないようなさまざまな制約の中で教壇に立つ先生と、それを補佐する立場の学校職員が減少傾向という事実を説明した。その状況において教育ITのシステム運用を誰が担うのかという点まで述べた。今回は、教育という大きな枠組みの中でのシステムの活用と運用について、「ヒト」の観点からさらに深掘りしていきたい。具体的には、教育分野のIT人材に必要なスキルやベンダーとの付き合い方などについて述べる。
日本が目指すプログラミング教育や教育ITとは?
日本の教育ITは何を目的にしているのだろうか。この質問に対する答えは、なかなか難しい。「IT」という言葉や技術ができたのは今から数十年も前だ。当初のITは、ウェブブラウザーなどでウェブサイトを閲覧でき、電子メールを使うくらいだったが、その後にさまざまな進化を繰り返し、範囲を広げている。世界の企業時価総額の上位のほとんどをGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)などと呼ばれるIT企業群が占めていることは、その状況をはっきりと物語っている。今やITは一つの分野ではなく、21世紀の社会を動かすために必要不可欠な重要インフラとなっている。
教育ITの中で、現在最も注目されているプログラミング教育は2020年に必修化される。資料などを見ると、文部科学省はプログラミング教育を通して育成する思考力を「プログラミング的思考」と位置付けている。つまり、C言語やJava、Python、Rubyのようないわゆるプログラミング言語自体の習得や特定の技術を示すものではないということだ。
この話は、ITの世界に長年いる筆者のような人間が何度聞いても正直理解しにくい。それでも、プログラミング教育とは何かをいろいろと考え、以下のような認識を持つに至った。それは、「ITの時代に必要な問題解決型の思考のための論理構造」がコンピューターの論理の理解に必要で、それを学ぶための科目がプログラミング教育だという理解だ。より端的に言えば、今の世の中はITをどう活用するかという段階をすでに過ぎてしまっており、むしろ、世の中のさまざまなことをITで解決することが当たり前の時代になった。そして、その時代に適応できる人間が今後の日本に必要――というのが、日本の政府の方針なのだろう。
つまり、日本における教育ITのゴールは、世界的なIT化の流れに日本の人材が乗り遅れないために、初等中等教育からITやプログラミングについての理解を深めることのようだ。そして、ITの基礎をきちんと学んだ人々が高等教育において、より専門的な知識を身に付ける。そのようなITのハードルを学生時代に飛び越えた人材が、助走なしに社会へ出て羽ばたけるというのが理想に近い、非常に美しい未来像だろう。あくまで私見ながら、筆者は日本のプログラミングや教育ITの目標とは、このようなものだと理解している。