本連載では、筆者が「気になるIT(技術、製品、サービス)」を取り上げ、その概要とともに気になるポイントを挙げてみたい。今回は、NECの「虹彩認証技術」を取り上げる。
歩きながらでも本人認証可能な虹彩認証技術を開発
NECは先頃、歩きながらでも本人認証可能な虹彩認証技術を開発したと発表した。同技術は、空港などの大規模施設におけるセキュリティゲートや電車、バスなどの改札ゲートでの本人認証など、幅広い領域で使用されることが期待されている。同社ではこの技術を2021年度までに実用化することを目指している。
虹彩認証技術は、目の角膜と水晶体の間にあるドーナツ状の薄い膜である虹彩データを用いた生体認証方式の1つ。非接触型で高精度かつ高速な本人認証が可能なことから、近年では海外の団体・企業を中心とした大規模照合が必要なシステムで活用され始めている。(図1)

図1:虹彩認証の仕組み(出典:NEC)
一方、虹彩認証技術では認識対象となる虹彩が非常に小さく、個人ごとに異なる虹彩の微小な模様を捉える必要があり、高精細な虹彩画像が必要となる。このため、虹彩認証利用時には、利用者がカメラの正面の決められた位置に静止し、目の位置をカメラに合わせるなど利用者に負担がかかり、利便性向上が求められていた。
今回、NECは歩いてくる利用者の虹彩を鮮明かつ高解像度に撮像する技術を開発。さらに、撮像後に行う画像処理を高速化した。これらにより、利用者が歩いている間に認証まで完了できるようになるとしている。
具体的には、通常の歩行速度で歩く人の虹彩を高精細に撮像するために、目の周辺領域(ROI:Region of Interest)の位置を正確に推定する技術を開発した。
歩行によって生じる頭部の上下動の幅を考慮し、ROIを推定。虹彩を撮像する位置を通過するときにROIのみを撮像することで画像データ量を大幅に削減し、従来は困難だった高解像かつ高フレームレートの撮像を実現した。これにより、通常の歩行速度で歩く人の虹彩を、鮮明かつ高解像度に撮像することを可能にしている。
また、高フレームレートで撮影された大量の画像から、独自の画質指標を基に、虹彩認証に適した画質の画像のみを高速に抽出する画像解析技術を開発。撮像した画像すべてではなく、この技術により抽出した画像だけを認証すればよいため、虹彩認証を瞬時に行うことができるという。