「データは新たな石油」という表現は、すでに陳腐化している。だが、企業が個人情報に含まれる価値を利用する中で、デジタル革新がもたらす恩恵の分配には依然として偏りがある。実際、偏りは非常に大きく、英国の情報コミッショナーであるElizabeth Denham氏によると、デジタル面での底辺層が増加しているという。
ロンドンで開催された、デジタルの倫理をテーマとするイベントで、Denham氏は次のように語った。「技術やデータ処理の対象となる人々と、力を持つ者たちとの間に格差がある。デジタル底辺層の先行きは、規制当局者である自分にとって間違いなく気がかりな問題だ」
世界の富豪トップ10のうち、半数はテクノロジー企業の現最高経営責任者(CEO)か元CEOだ。英誌The Economistの調査部門Economist Intelligence Unit(EIU)が世界各国の企業幹部を対象に実施した調査では、回答者の83%が、データのおかげで、販売しているサービスや製品の収益性が向上すると答えている。
Denham氏は、欧州データ保護監督官だった故Giovanni Buttarelli氏のビジョンに基づいて11月に発表されたプライバシー宣言に言及した。Buttarelli氏は、データの収集を制御する者たちに力を持たせる「データ寡占(data-opoly)」の状態を非難した。その対極には、利益を上げるために個人情報が収集されるが、デジタルセルフ(個人について収集されたデジタルデータの総体)の利用について発言権を持たない人々がいる。
こうしたデジタル底辺層は、自らに影響するアルゴリズムのロジックを知る手段を持たないと、Denham氏は主張する。たとえば、ギグエコノミーで働く労働者は、自分の業績を評価したり仕事の割り当てを決めたりするデータにアクセスできない。
実際、3月には、Uberのドライバーらが同社を相手取り、透明性の向上を求めて、自分たちについて収集されたデータへのアクセス(現時点ではアクセスできない)を要求する法的手段に訴えた。
この件では、強い力を持つデータ保有者と、それより弱い立場にある情報提供者の格差が注目を集めた。だが、Denham氏によると、これが常態化するのはまだ先の話だという。