本格化する「スマートファクトリー」--カシオ計算機の生産戦略と実践

國谷武史 (編集部)

2020-04-08 06:00

 近年、国内の製造業でさまざまなデータと人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)などのテクノロジーを活用する「スマートファクリー」の取り組みが広がっている。電機大手のカシオ計算機は、2017年に生産部門の組織改革を行い、スマートファクリーへの取り組みを加速させている。

生産の海外移管

 カシオ計算機は、「G-SHOCK」で知られる時計や楽器、関数電卓、電子辞書などの民生用製品から、ハンディーターミナルやプリンター、プロジェクターなどの業務用製品まで多種多様な製品を開発、生産する。かつては携帯電話やデジタルカメラなども手掛けた。

カシオ計算機 執行役員 生産本部長の矢澤篤志氏
カシオ計算機 執行役員 生産本部長の矢澤篤志氏

 2018年から同社は、「事業と機能のマトリックス経営」を特徴とする大規模な構造改革に乗り出し、製品ごとの事業を横断する機能別部門(開発本部など)の責任を明確にした。これに先駆けて改革を進めてきた生産本部では、開発・設計と生産が密に連携するフロントローディングの実現、品質・プロセスの標準化、生産の自動化につなげる技術の開発などを推進している。こうした取り組みの中核として、山形カシオの山形工場(山形県東根市)をマザー工場に位置付けている。

 同社のIT部門責任者などを歴任した執行役員 生産本部長の矢澤篤志氏は、その狙いを労働集約型の生産から脱却することにあると話す。そのゴールとしてのイメージがスマートファクトリーだ。同社では「生産効率の向上」「設備保全」「品質の維持向上」を目的に位置付け、AIやIoTの利用とデータ活用の成熟度を段階的に高めるアプローチで、スマートファクトリー化を進める。これによって製品の早期の立ち上げと展開、安定した生産を実現しようとしている。

 この取り組みに至る背景には、生産体制の変化の歴史がある。国内電機各社は、1980年代まで国内生産をしていたが、1980年代後半から進んだ円高ドル安や人件費高騰により、製品のコスト競争力が大きく低下した。そこで多くの企業が日本よりコストが低廉な中国や東南アジア各国に生産拠点を移管していく。

 矢澤氏によれば、同社でも1985年頃から海外での生産比率が徐々に増え、最盛期の2010年頃には生産全体の約90%、このうち約8割を中国が占めた。一方、海外の生産拠点数のピークは2000年頃で、13カ所に上ったが徐々に縮小し、2010年以降は海外4拠点(中国・中山、東莞、韶関およびタイ)と国内1拠点(山形)に集約している。事業部制の強化を中心とする構造改革で生産効率の効率に取り組んだものの限界があったという。そこで時計を除く多くの品目をEMS(受託生産)に切り替えていった。2007年頃には金額ベースでEMSの生産比率が約7割を占めたという。

 国内の生産拠点は、かつて山形以外に山梨や愛知、高知にもあった。それぞれが品目ごとのマザー工場に位置付けられていたが、海外移管に伴って順次縮小・閉鎖され、山形工場が唯一の国内拠点になっている。

 この間、海外の生産環境も大きく変わり、同社にとって新たな課題が浮上した。同時期には米国を中心とする大手コンピューターメーカー各社がPCやサーバーなどの生産をアジア圏のEMSに委託する流れが本格化し、2000年代後半にはスマートフォンも加わった。これによりEMS各社は、従来のメーカーニーズへ柔軟に対応する生産体制から大量生産ニーズに対応できる体制に切り替えた。

 「多品種・少量生産する当社の場合、EMSへの生産委託でコストの最適化を目指していたが、折しもEMS各社のビジネスモデルが大量生産にシフトする時期と重なってしまった。2010年頃には一部の品目で品質的な問題が顕在化するようになり、コスト面でも採算が合わない状況が生じた」(矢澤氏)

 加えて、長年にわたって事業効率化のために設計や生産技術、品質技術などを社外に展開してきた経緯から、元々内製している時計以外の品目については、内製のための技術が空洞化していたという。そこで2010年以降、全品目で内製率を高める方針に転換する。

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