企業にとって健康経営の推進は経営理念の体現
富士通がこうしたサービスを提供することにした背景には、少子高齢化による生産年齢人口の減少に伴い、働き手不足による企業の生産性低下が危惧されていることがある。そのため、各従業員の生産性を高め、長時間残業による労働災害や企業イメージの低下を防ごうと、働き方改革へ取り組む重要性が高まっている。
その実現の施策として、企業が経営的な理念を持って、従業員の心身の健康の増進やいきいきと活躍できる職場づくりに取り組む健康経営が注目されており、企業が積極的に健康経営を推進することで、結果的に企業のイメージや業績、株価の向上につながると期待されている。
しかし、企業はこれまで必要最低限のリソースで労働安全衛生法に即した健康管理に取り組んできたため、健康経営を始めるにあたって組織や人員を含む体制づくりが必要となるほか、そもそも健康経営への取り組みをどのように実施すればよいのか分からない、といった課題が浮かび上がっていた。
そこで富士通は、1990年代より健康情報管理システムを社内向けに活用して製品提供を行ってきた実績や、医療健康情報の取り扱いで培ったノウハウをもとに、LifeMark HealthAssistを提供するに至った格好だ。
筆者が今回、LifeMark HealthAssistを取り上げたのは、企業における健康経営の取り組みにはこうした背景があることを記しておくとともに、このところの新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大に伴って、このテーマが経営課題としてますますクローズアップされるようになると考えたからだ。
かつて人的資源管理(Human Resource Management:HRM)が人財管理(Human Capital Management:HCM)に、すなわち「人材」を「人財」と表現する企業が増えた時期に、その変化の根本を探ろうと取材して回ったことがあるが、健康経営やヘルスケアというのも人財の考え方とともに企業が重視し始めたという印象がある。
先ほどの背景のくだりで、企業が積極的に健康経営を推進すれば、結果的に企業のイメージや業績、株価の向上につながると期待されていると記したが、もっと根本的なところで言えば、健康経営の推進は、その企業の経営者が従業員を人材ではなく人財と捉えているかどうかを示す象徴的なアクションではないか。すなわち、企業にとって健康経営の推進は、まさしく経営理念を体現するものだといえよう。
これからのコロナ禍での取材は、改めて経営者のその認識度合いを注視していきたい。