松岡功の「今週の明言」

ドロップボックス社長がテレワークに「ジョブ型」を結びつける論調に異議あり

松岡功

2020-07-22 10:26

 本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。

 今回は、Dropbox Japan代表取締役社長の五十嵐光喜氏と、アカマイ・テクノロジーズ職務執行者社長の山野修氏の発言を紹介する。

「テレワークは『ジョブ型』でなければできないわけではない」
(Dropbox Japan代表取締役社長の五十嵐光喜氏)

Dropbox Japan代表取締役社長の五十嵐光喜氏
Dropbox Japan代表取締役社長の五十嵐光喜氏

 Dropbox Japanは先頃、国内のオフィスワーカー1000人を対象に実施した「テレワークに関する意識・実態調査」の結果について記者説明会を開いた。五十嵐氏の冒頭の発言はその会見の質疑応答で、テレワークによる生産性向上と人事管理の関係について聞いた筆者の質問に答えたものである。

 会見の冒頭で挨拶した五十嵐氏は、政府がこのほどまとめた「2020年の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の内容に言及して次のように語った。

 「今後1年は行政のデジタル化を推進する集中改革期間と定め、企業のテレワークの定着・加速を図るために新たな数値目標を策定するとしている。テレワークについては、これまでのNice to Have(あればよい)からMust Have(なくてはならない)へと舵が切られたのではないか。それも今がまさにそのタイミングだと宣言されたと受け止めている」

 同氏の挨拶の後に説明された調査結果についてはサマリーの表とともに関連記事をご覧いただくとして、実は冒頭の明言として「テレワークはNice to HaveからMust Haveへ」を取り上げようと思っていたところ、会見の質疑応答で同氏の持論とも読み取れる発言を聞くことができたので、そちらを取り上げた。

テレワークに関する意識・実態調査結果のサマリー(出典:Dropbox Japanの資料)
テレワークに関する意識・実態調査結果のサマリー(出典:Dropbox Japanの資料)

 その発言というのは、「テレワークは生産性向上が課題になっている。生産性を向上させるには人事管理とうまく連携させる必要があると見られている。この点についての見解をお聞きしたい」と聞いた筆者の質問に答えた次の回答である。

 「人事管理の分野ではこのところ『ジョブ型』という言葉が話題になっているが、テレワークはジョブ型でなければできないわけではない。テレワークとジョブ型を結びつけて論じるのは、少々性急すぎるのではないか。テレワークはできるところから始めればよいと考えている」

 冒頭の発言はこのコメントから抜粋したものである。ちなみに「ジョブ型」というのは雇用形態の1つで、職務を規定し成果を評価しやすくする制度だ。それぞれのポストに最適な人材を配置することによって生産性を高められる利点があり、時間ベースの管理がしにくい在宅勤務などのテレワークとも相性がいいとされている。

 ただ、筆者は質問で「人事管理」という言葉は使ったが、「ジョブ型」には一切触れていない。にも関わらず、五十嵐氏が上記のように回答したのは、最近のこの分野の論調に対して異議を唱えたものと受け取っていいだろう。

 とはいえ、五十嵐氏が一番言いたかったのは、「テレワークはできるところから始めればよい」に違いない。同社のサービスもそこに大きく貢献できるからだ。筆者の質問が誘導的だったかもしれないと思いつつ、同氏の骨太の意見が聞けてよかったと考えている。

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