人事関連でよく聞く言葉「従業員エンゲージメント」。ただ、「エンゲージメント」という言葉自体が日本語としてあまり馴染みがないこともあり、一般の管理職やビジネスパーソンの多くにとって、どのようなものなのかを理解するのに難しさを感じるというのが実情ではないだろうか。
そこで、ここでは、従業員エンゲージメントとは何かから始まり、なぜ重要なのか、向上のためにはどうすれば良いか、コロナ禍の影響といったことを知るため、従業員エンゲージメントに詳しいクアルトリクスのEXソリューションストラテジーディレクターである市川幹人氏に話を聞いた。先日公開した前編に続き、今回はその後編。
従業員エンゲージメントの向上と評価
――従業員エンゲージメンを上げるためにはどうすればよいのでしょうか。
市川幹人氏
提供:クアルトリクス
これはですね、何かボタンを押せばエンゲージメントが簡単に上がるとかというものではないので、各社とも色んな工夫をしています。その中の1つが、社員の声をまず聞き、そこから課題を見出し、その課題の中で何を良くすればエンゲージメントにもポジティブな影響が出るかというのを考える、という流れです。
その時に、まさにテーマとしてエンゲージメントの裏でそのエンゲージメントにインパクトを与えている要因は何なのだろうと。調査するのであれば、その調査の中でもエンゲージメントと相関が強いテーマをちゃんと特定して、その中で「今あまりできていないものは何か」となります。
もちろん、いろんなやり方があり、エンゲージメント調査あるいはエンプロイメント調査は、1種類で世の中すべてをやっているわけではないので、その会社の考え方や、弊社のようなサービスを提供している会社の考え方もいろいろあります。ですが、大体、次のようになります。
リーダーシップに対してどれだけ社員が信頼感を持っているか、経営陣が正しい舵取りをしているか。お客様の方を向いて仕事がちゃんとできているか、それとも内向きで社内政治がうるさいとか、組織の縦割りが強くてそれに邪魔されて何もできないとか。または、お客様に良いサービスが提供できているかとかですね。あるいは自分にとって成長の機会がちゃんとある会社か、ここで5年〜10年頑張っていると自分のキャリアアップにつながるか、いろんなことを学べそうかとか。
これらはHR上のテーマなのですが、こういったものを網羅的に置いておき、どのテーマが社員のエンゲージメントによりインパクトを強く与えているかを統計的に分析したりします。
そうすると、たとえば、成長の機会というのは、本当に定番中の定番のドライバー――エンゲージメントに影響を与えるもの――なのですが、その会社にいる意味を各社員が考えた時、これだけ学べる、素晴らしい先輩たちがいる、世の中にないようなビジネスをこの会社にいると学べる、トレーニングもあったりして5年、10年頑張っていることで自分のレベルを確実にアップできる、スキルが付いていく、というようなことがあれば、もっと頑張ろうとなります。いろいろなことを自主的に試してみる、組織の発展に貢献したという気持ちで一生懸命仕事に取り組む、というような気持ちにつながってきます。
実は、リーダーシップなども非常に重要です。経営陣やマネージャークラスがしっかりと自分たちを引っ張ってくれるかどうか。それによって、やる気が出てくるか出てこないかということはあるわけです。上司を見て、「あんなだらしない上司」「部下の面倒を全然見てくれない」「反面教師だよ、あの人は」というようなことを言われてしまう管理職しかいない組織の社員は「もうやってらんない」となります。「こんなに頑張っても意味ない」という気持ちになってしまうこともあるので、エンゲージメントに対してはマイナスの影響があります。
こういったドライバーというのは、プラスの影響と同時に、それがダメな場合はマイナスに影響する可能性もあります。ですから、成長の機会やリーダーシップというテーマは、どれもドライバーになる可能性があります。あと、最近はやはり、ワークライフバランスとかですね。自分の生活がちゃんと充実したものになるかっていうことによって、仕事の方も頑張れる、というような要素が重要になってきていると思います。
質問に戻りますと、何をすればエンゲージメントが引き上げられるか。それは会社によっても違うのですが、平均的な社員がより気にしているテーマに対し、会社としていかに良い体験を提供できるか、ですね。そして、その体験を受け止める社員が「この会社がいいな」「なんか仕事が楽しい」「もっと頑張ろう」と思うことで、エンゲージメントのアップにつながるということです。