広告配信基盤を手掛ける仏企業のCriteoは、2019年11月に最高経営責任者(CEO)が交代した。前任のJean-Baptiste Rudelle氏に代わって、Megan Clarken氏が同社の新たなかじ取りを担っている。Clarken氏が同社CEOに就任した背景や今後のビジネス戦略、プライバシー問題、コロナ禍における事業体制などについて、電子メールでインタビューした。
--自己紹介とこれまでのキャリアをお聞かせください
Criteo CEOのMegan Clarken氏
ニュージーランド出身で、大手パブリッシャーやオンラインテクノロジープロバイダーにて上級管理職を務め、2019年11月にCriteoの最高経営責任者(CEO)に就任しました。前職では、Nielsenに約15年間在籍し、直近では同社のビジネスユニットの一つである、Nielsen Global Mediaの最高商務責任者(CCO)を務めました。
--CEOに就任した背景を教えてくださいカスタマージャーニーのあらゆる段階をサポートするフルファネルマーケティングソリューションを提供するマルチプロダクトプラットフォームとしてCriteoが進化し続ける中、これまでのグローバルな広告およびメディア経験を生かしていくことができます。グローバルな拠点、継続的なイノベーション、アドテク(広告技術)のエコシステム全体に価値を付加できる才能と情熱がある人材を含む、質の高い資産もCriteoに魅力を感じた理由です。Criteoの転換期にCEOに就任し、次なる発展と変革へ導いていくことを楽しみにしています。
--就任から約10カ月、特に注力し取り組んできたことは何ですか?私の第一のミッションはCriteoのマルチプロダクトプラットフォームへの変革を加速させることで、それに現在も変わりはありませんが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、危機管理およびビジネスの継続も重要な仕事となりました。オペレーションとファイナンスを滞りなく運営すると同時に、オンライン会議を通じて従業員との信頼関係を構築することに努めています。Criteoが最重要視するのは人材であり、組織として最大の資産であると考えています。社員の安全やサポートの保証なくして、企業の成功はありえません。
--Nielsenでは、最終的にCCOに就任されました。CEOの業務内容と大きな違い、共通する点はありますか?CCOは何よりもまず、利益、販売、顧客に焦点を当てますが、CEOはビジネス全体を監督し、株主価値の向上に注力します。その役割には、組織全体を前進させる責任あるリーダーによって構成されるチーム作りも含んでいます。
--前任のRudelle氏に取材した当時は、Criteoが既存顧客の活性化や新規顧客の獲得といった「フルファネル」へビジネスモデルを移行しようとしている時期でした。この1年半での具体的なビジネスのアップデートを教えてくださいリターゲティング広告だけでなく、製品ポートフォリオの拡充をはじめ、アプリ、動画、スマートテレビ、オムニチャネルなど急成長しているチャネルのユーザーまでリーチできるよう製品開発に取り組んでいます。
日本では2019年に、リテーラーのEC(電子商取引)サイト上やアプリ内でブランドの広告を表示させることができる製品「Criteo リテールメディア」と、機械学習と予測最適化により適切な新規顧客へのリーチ及び獲得までを実現するアプリ広告ソリューション「Criteo アプリインストール」を発表し、2020年にはウェブ広告における認知(Awareness)から検討(Consideration)、購入(Conversion)において、検討段階の顧客のサイト流入強化を可能にする「Web Consideration 」をローンチしました。 また、Yahoo! JAPANやニールセンとの提携など戦略的アプローチも強化しています。
オンライン識別子に関しては、大手テック企業や業界団体と積極的に協働しながら、さまざまなレベルのターゲティング広告を提供できる幾つかのシナリオを練り、前進し続けています。そしてそれは関連性を保ちながら消費者のプライバシー保護をすること、パブリッシャーが広告主の広告費用対効果を高めることにもつながります。
とりわけ、CriteoはW3CでGoogleのプライバシーフレームワーク「Turtledove」(Two Uncorrelated Requests, Then Local-Executed Decision On Victory)に応え、「Sparrow」(Secure Private Advertising Remotely Run On Webserver)という改善案を発表しました。広告業界からはポジティブな関心とフィードバックをもらい、Googleとともに次の検証段階へと移行しています。Criteoは今後もエコシステム全体と議論を積み重ね、協力していきたいと考えています。
--日本ではモバイル向けソリューションへの取り組みが先行していると聞きました。現在の日本市場の位置付けや日本市場での事業戦略について教えてくださいCriteoにとって、日本は2番目に大きな市場です。今後もコアビジネスを強化するとともに、Web Consideration のようなリターゲティング製品との相乗効果を発揮するミッドファネル、アッパーファネルソリューションにも注力していきます。
Criteo リテールメディアやCriteo モバイルアプリソリューションなどさまざまな新しいソリューションや戦略的パートナーシップも発表しており、日本ではお客さまにより良いサービスとパフォーマンスを提供するための大規模な設備投資も進行中です。今後も日本を重要なグローバル市場として位置付け、顧客中心主義を貫いていきます。
--現在の主なカスタマーはどの業界でしょうか世界中の多様な業界で1000以上のブランドを含む2万400の広告主にソリューションを使っていただいています。主なクライアントは小売業、観光業、不動産業ですが、製品ポートフォリオの拡大とともに顧客基盤も拡大しています。
--COVID-19という就任時は予想していないことが起きています。COVID-19のビジネスへの影響と(カスタマーサポートも踏まえ)その対応を教えてください企業としてのアジリティーは、新しい規制や変化の目まぐるしい市場での課題を解決する要となり、特に不確実性が高く、不透明な今の時代で求められます。現在、Criteoはビジネスを管理する明確な運用計画があり、COVID-19の状況に迅速に適応しています。緊密なコミュニケーションとシームレスな連携により、非常にスムーズに運営できています。従業員と従業員の安全は何よりも重要です。そのため、心理的なサポートも含めあらゆるサポートを提供し、従業員間のつながりを維持しています。
--広告業界ではクッキー規制という課題もあります。具体的なクッキープライバシーに関する戦略を聞かせてください業界は識別子の課題に直面していますが、パーソナライズされた広告と識別子の必要性はなくなりません。 Criteoが扱う25億人分のデータの98%は、クッキー以外の永続的識別子が含まれているため、Criteoはこの変化において有利な立場にあります。さらに、社内の技術開発だけでなく、信頼するパートナーとの共同作業により、クッキーや他の識別子を上回る識別子ソリューションの多様化を進めています。
Criteoは、ユーザーの権利、顧客中心主義、オープンかつ柔軟であるという原則に基づいて、業界と協力して積極的にオンライン識別子に取り組んでいます。ユーザーの権利であるコントロールと選択の機会を尊重し、選択肢によってユーザーが受けるメリットを理解してもらうことは、バランスが取れた価値交換を取り戻すために特に重要です。
検討中のシナリオは次の3つで、全て共存する可能性もあります。
- ユーザーレベルターゲティングの存続
- 関心グループレベルのターゲティング
- コンテクスチュアル(文脈)ターゲティング
ユーザーレベルのターゲティングを継続するため、Criteoは「User-Centric Ad ID(ユーザー中心の広告識別子)」と呼ばれるポータル構築に取り組んでいます。構想としては、ユーザーが自身のプライバシープロファイルにアクセスし、ブラウザーやアプリ上でのターゲティングされる設定を常時自由に更新できます。
関心グループレベルのターゲティングに関しては、先述したCriteoの提案であるSparrowがあります。
Sparrowは、ユーザー体験を保護し、あらゆるプライバシー保証を維持しながら、Turtledoveを強化し、アドテクエコシステムにより多くの価値を提供し、制御と透明性を高めることを目指しています。
User-Centric Ad IDとSparrowは開発進行中の段階なので、現在の提案をもとに業界全体に取って有益となるものへ進化させ続けるため、今後も広告主、パブリッシャー、その他関係者の意見を取り入れていきます。また、コンテクスチュアル(文脈)ターゲティングを追求するための戦略的パートナーシップにも取り組んでいます。