IBMは、人間と討論できる人工知能(AI)システムを開発するプロジェクト「Project Debater」への取り組みの中で、「IBM Watson」に自然言語処理(NLP)の新機能「Key Point Analysis」テクノロジーを搭載し、多人数の主張を総括するというデモを実施した。
提供:IBM
IBM ResearchによるKey Point Analysisの成果は、Bloomberg TVの「That's Debatable」(それは議論の対象だ)という番組で披露されている。米国時間10月9日に放映された番組では、元米労働長官のRobert Reich氏とギリシャの元財務大臣であるYanis Varoufakis氏、元米財務長官であるLarry Summers氏、マンハッタン政策研究所のシニアフェローAllison Schrager氏の間で、富の再分配についての議論が交わされた。
Project DebaterのプリンシパルインベスティゲーターであるNoam Slonim氏は、Key Point Analysisの目標が「人間の言葉を取り扱えるAIシステムを実現する」というものだと述べた上で、「自然言語処理(NLP)の利用で大きなチャンスがある」と述べた。
Key Point Analysisが用いられたのは、「That's Debatable」の初回エピソードのテーマである富の再分配に関する討論のポイントを浮き彫りにするためだ。富の再分配を実行する時が来ているかどうかというテーマについて事前に寄せられた約3500の主張の中から、20のポイントが集約され、番組内で人間による討論に用いられた。このテクノロジーによる分析では、富の再分配に56%が賛成し、44%は反対するという結果だった。なお反対の44%のうち、15%は懸命に働く意欲を阻害するというモラルハザードを引き合いに出すものだった。AIがこれらの主張をまとめていなかった場合、このようなポイントが討論で浮き彫りにされることはなかったかもしれない。
寄せられた主張の詳細は以下の通りだ。
- 主張の合計数:3508件
- 有効な主張の数:1600件
- 最終的なキーポイントの数:20
- 賛成派と反対派それぞれのストーリー性ある主張を生成
Slonim氏の説明によると、Key Point Analysisはキーポイントを浮き彫りにし、箇条書きとしてまとめ、レビューとストーリー性ある主張のための定量的な数値を生み出すという。同氏は「サマリーに短いコメントを織り込むことで、意思決定者を導くとともに、意思決定者と影響を受ける人々との間にコミュニケーションチャネルを確立できるようにする」と述べた。
IBMのAI担当チーフアーキテクトであるDakshi Agrawal氏によると、同社は、Watsonのポートフォリオで利用可能なテクノロジーの商用化に取り組んでいるという。Agrawal氏は「企業への導入には、カスタマイズ可能であり、業務部門の幹部が使えるようなものにするとともに、NLPによって知識を簡潔に取り込む能力を有している必要がある」と述べ、「また、独自の訓練データを利用するための開発者向けツールも必要となる」と続けた。
ユースケースとしては、企業が重要なテーマに関して従業員の意見を求め、その主張を整理するというものが考えられる。IBMのテクノロジーによって主張の質を評価し、まとめてストーリー性のあるかたちで提示できるようになる。Agrawal氏によると全体としての目標は、AIを用いて現実世界の問題を解決することだという。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。