「完全仮想化クラウドネットワーク」を武器にモバイル事業に乗り出した楽天モバイル。現状は、コアネットワークよりも足回りの基地局の設置にまい進している段階だ。サービスインから1年が経過した同社のテクノロジーについて分析する。
楽天モバイルの「完全仮想化クラウドネットワーク」のキーポイントは、ほぼ全ての設備が汎用のx86サーバー、IPネットワーク(IPv6)などを組み合わせて構築されている点だ。最も重要なのが、基地局のアンテナ部分とコントロール部分を切り離し、コントロール部はエッジサーバーにソフトウェアで構築されている部分である。アンテナ部とエッジサーバーという仕組みは、オープン規格となるオープンRAN(無線アクセスネットワーク)という業界標準を満たしたものとなっている
現在データセンターは国内の東西2カ所に設置されている。エッジサーバーはNTT局舎にコロケーションで設置されている。基地局数が増えてくればデータセンターを各エリアに設置したり、複数のエッジサーバーをまとめる地域データセンターなどを設置したりすることになるだろう(総務省に提出された楽天モバイルの資料より)
楽天モバイルのネットワークにおけるソフトウェアスタック。無線ユニットをコントロールしているのがAltiostarのソフトウェア。NFVの基本的なソフトウェアスタックはCisco、モバイルネットワークに関係する部分はNokiaが提供している。NECは課金システムなどを提供している(総務省に提出された楽天モバイルの資料より)
これにより、ビルなどに配置するのがアンテナ部と電源(バッテリーを含める)、アクセス用の光ファイバーなどとなる。設備がコンパクトになり敷設がしやすい。設置するビルにとっては重い設備を配置しなくてもいいため、受け入れやすいとされていた。
同社の基地局整備が2019年前半に遅れたのは、基地局を受け入れることができるビルなどに、既に大手キャリアのアンテナ設備があり、また、新たなビルへ導入する場合は、ビルに入っているテナントなどとの調整が必要になり時間を要したためと言われている。
オープンRANによって基地局を仮想化することで基地局の構成がシンプルになった(総務省に提出された楽天モバイルの資料より)
エッジサーバーには仮想化されたRANシステムや各種ネットワークシステムなどが搭載されている(楽天モバイルの資料より)
エッジサーバーのコンフィグレーションはリモートで行う。この辺りは楽天市場のクラウドコンピューティングを運営している自動化ノウハウが生きている。自動化に関してはAI(人工知能)導入も計画し、AIで各種データを集めて適切な設定をサポートする(楽天モバイルの資料より)
楽天モバイルがスタートして膨大なトラフィックをネットワークで処理している(楽天モバイルの資料より)
完全仮想化ネットワークでも安定し高いパフォーマンスを構成できたとする楽天モバイル。急激なトラフィック増にも追従している(楽天の決算資料より)
また、ビルにアンテナを設置できても、NTTの局舎に配置したエッジサーバーと接続するための光ファイバーの敷設(楽天モバイル自身は光ファイバーを敷設するのではなく、NTT東西や鉄道事業者などからダークファイバーを借りている)に時間がかかったり、エッジサーバーを設置するNTTの局舎にサーバーを置く場所や電源容量がなかったりしたほか、多数のダークファイバーを引き込めずアンテナを設置しビルなどに最も近いNTTの局舎が使えないなどの状況から、基地局群の構築に手間取ったようだ。