歴史ある材木会社がDX--売上向上や若手の採用に成功
最後に、DXで成功した中小企業の事例を紹介します。
東集(江東区、単体従業員数27人)は、1956年創業の材木を取り扱う企業です。2019年にクレストホールディングスのグループ会社となりました。クレストホールディングスはデジタル化により伝統的な市場に革新をもたらすことをミッションとする企業で、この参画をきっかけに東集のデジタル化が推進されることになります。
東集では、顧客との取引はすべて紙と電話で行っていました。そのためデータがなく、目標や評価指標(KPI)も設定しておらず、PDCAを回すという概念もありませんでした。業務では、電話とファクスでのやり取りがあるため従業員は外勤できない、既存顧客との取引が主で新規顧客獲得のためのアクションをしてない、という課題がありました。会社の古い体質のせいか、若手の採用ができず社員の平均年齢が40代後半と上昇していくのも悩みのタネでした。
歴史ある企業だからこその課題が山積みでしたが、他のグループ会社と同様のDXレベルまで半年で達成するべく、トップダウンでDXを推進することになりました。
最初に行ったのは、既存業務の整理と、業務設計の大幅見直しです。DX推進ができるような業務を再設計したのに続き、職務権限、職務規定などにあわせて運用できるように、システムのトライアル導入をしながら、調整を行いました。予定通り半年後から完全に新しい業務システムを導入、本番運用に入りました。
システムを切り替えた2020年2月、新型コロナウイルスの感染拡大に伴いリモートワークを検討し始め、緊急事態宣言発令後、4月にはリモートワークに切り換えることができました。
結果、これまで課題であった紙と電話での業務からデジタルに切り換えることができ、数字による定量的な分析、改善が可能になりました。リモートワークにも対応でき、コロナ禍でも従業員の安全を守りながら業務を遂行できたのも大きな成果です。
業務の生産性があがり、データドリブンで業務を運用できるようになったので、これまでアクションを起こせていなかった新規顧客獲得もできるようになり、結果として売上拡大にもつながりました。しかも、組織変革がブランディングになり、20代の社員3人の採用も実現しました。
東集の成功の背景には「変わらなければ会社が終わってしまう」というトップの強い危機感がありました。そしてドラスティックに業務を変革したことで、生産性向上、売上向上、職場環境の改善、新規顧客獲得、さらには人材採用というこれまでの課題を一気に解決するに至りました。
同様の課題を抱えている企業もまだ間に合います。コロナ禍ですでに多くの企業が変革を余儀なくされました。ここで大きな変革を実行することは、ニューノーマル(新常態)時代に生き残るための必須条件でもあると考えています。
(第3回は12月上旬にて掲載予定)

- 千葉 弘崇(ちば ひろたか)
- セールスフォース・ドットコム
- 専務執行役員 コマーシャル営業
- 1995年に明治大学経営学部卒業後、外資系ハードウエアメーカー、外資系コンサルティングファームを経て、2008年4月にセールスフォース・ドットコム入社、コマーシャル営業本部営業マネージャーに就任。2018年に専務執行役員に就任。