行政のデジタル化で後れを取る日本--注目される英韓デンマークの取り組み - (page 2)

阿久津良和

2020-11-11 07:15

 コンポーザブルシンキングを実現する英国は、手動または自動で無料のテキストメールや1ページ35ペンスの手紙、年間25万件まで無償のテキストメッセージ(以降は1件1.58ペンス)を送付できる「GOV.UK Notify」サービスを展開している。約880組織、約3500の公共サービスが利用し、年間4億件の通知を市民に発信したという。運用する上で自治体のブランド構築に需要があると判明し、現在も機能強化やさらに改善に取り組んでいる。

 コンポーザブルビジネスアーキテクチャーに取り組む韓国は、地方自治体数を管理可能な単位に改編することで、デジタル政府を推進してきた。1960年時点の基礎自治体数は1518を数えるが、2019年になると226まで削減。この数値を基礎自治体あたりの人口に換算すると韓国は23万人。基礎自治体数1741の日本はたった7万人。加えて韓国はシステムを共通化しているが、日本の自治体は異なるシステムを採用している。

 コンポーザブルテクノロジーを早期から実行してきたデンマークは、1968年に日本でのマイナンバーにあたる「Central Persons Resistration」(CPR)ナンバーを国民だけではなく、3カ月以上滞在する駐在員に付与している。

 1970年にはCPRナンバーと納税記録と紐付け、1977年には医療データを紐付けて医療従事者による診察・服薬履歴の参照を可能にした。参照権限は2000年代に国民へ拡大し、2012年には国民全員へ生体サンプルデータを保管する「バイオバンク」を設立している。デンマークはデータを中心とした行政サービスのデジタル化を実現している。

 中村氏はこれらの政府の取り組みについて、「デジタルを駆使した新たなモデル」と評した。その上で「『TechQuilibrium(デジタル化の均衡点)』の早期発見、『Quick Win』と『長期的なTransformation』の並行実施、そして『Human-centered Design(人間中心設計)』で継続的な改善」が必要だと強調する。

国民のデータ活用能力がデジタル政府の成否に

 Gartnerはデジタル政府の実現について、「コンポーザブルビジネス指標」が必要だと提唱する。

ガートナー ジャパン リサーチ&アドバイザリ部門CIOリサーチ ディスティングイッシュトバイスプレジデントアナリスト 足立祐子氏
ガートナー ジャパン リサーチ&アドバイザリ部門CIOリサーチ ディスティングイッシュトバイスプレジデントアナリスト 足立祐子氏

 ガートナー ジャパンのフェローであり、リサーチ&アドバイザリ部門CIOリサーチ ディスティングイッシュトバイスプレジデント アナリストである足立祐子氏の説明によれば、「通常の政府は政策や予算配分の変更により、一貫性のあるプロジェクトを長期にわたって展開しにくい。政策変更時も無駄なく使えるコンポーザブルビジネスが公的機関で受け入れられ始めている」

 コンポーザブルビジネスを実現する上で重要なのが「モジュール化」「オーケストレーション」「検出」「自律」の4原則。モジュール化は「組み合わせを前提とした要素に落とし込み」、オーケストレーションは「組み合わせ」、検出は「落とし込んだ要素を検出し」、自律は「現場の自律的な判断を吸い上げる仕組み」を意味する。

 足立氏は「公的サービスはユーザーを選べず、能力が異なる相手のニーズに応えなければならない。さらに国民の世代が変わればテクノロジー対応能力も変化する。デジタル政府の実現は将来を見据えなければならず、コンポーザブルビジネスという発想を取り入れるのが、政府のデジタル化を推進する上で必須だと考えている」と説明した。

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