ニューロモーフィックコンピューティングとは?
ニューロモーフィックコンピューティングとは、その名前が示唆しているように、人間の脳の働きに着想を得たモデルを使用するコンピューティング技術だ。
脳はコンピューティングの進歩にとって本当に魅力あるモデルとなっている。部屋を丸ごと占有する多くのスーパーコンピューターとは異なり、脳はコンパクトであり、「小さな」と言うと失礼かもしれないが、あなたの頭の中にもきっちりと収まっている。
また脳は、ほとんどのスーパーコンピューターよりも消費エネルギーがずっと小さい。あなたの脳が消費するエネルギーはおよそ20ワットである一方、スーパーコンピューター「富岳」の消費エネルギーは28メガワットにもなっている。人間の脳は富岳が消費するエネルギー量のおよそ0.00007%しか必要としないのだ。さらにスーパーコンピューターは手の込んだ冷却システムを必要とする一方、脳は摂氏約37度に保たれた頭蓋骨内で機能している。
実際のところ、スーパーコンピューターは特定の計算処理であれば素晴らしい速度で実行できるが、適応力という点では脳に軍配が上がる。脳は詩を書き、群衆の中から一瞬で身近な人の顔を識別し、自動車を運転し、新たな言語を学習し、優れた意思決定や間違った意思決定などを実行できる。このような、従来のコンピューティングモデルでは難しい処理を、われわれの脳が用いているテクニックによってこなすことができれば、未来のより強力なコンピューターへと向かう扉が開かれる可能性もある。
ニューロモーフィックコンピューティングシステムが着目されている理由
今日におけるほとんどのハードウェアはvon Neumannアーキテクチャー、つまり記憶機能と演算機能が分離されたアーキテクチャーに基づいている。von Neumann型のプロセッサーは、メモリー回路と論理演算回路の間でデータを何度も往復させる必要があるため、時間(論理演算回路とメモリー回路をつなぐバスの速度によって演算処理待ちが発生する)とエネルギーの無駄が発生するのだ。この問題はvon Neumannのボトルネックとして知られている。
半導体メーカーはムーアの法則に従って、von Neumann型のプロセッサーにトランジスター回路を詰め込むことで、長きにわたってチップ上の計算能力を高めてきた。しかし、トランジスターの微細化と、エネルギー要求の高まり、そして回路の発熱といった問題が相まって、チップの根本的な変革なしには越えられない壁が見えてきた。
今後von Neumann型アーキテクチャーは、われわれの要求するコンピュートパワーの増大に耐えられないようになっていくはずだ。