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2021年は10年後の変革を先取りする1年に

田中克己

2021-02-22 07:00

 「2021年は、コロナ禍がなかった場合の2030年に相当するものになる」――。インターネットイニシアティブ(IIJ)の勝栄二郎社長は2021年の年頭あいさつで、10年後の未来の先取りを予測する。確かに、新型コロナウイルス感染症の拡大が企業の経営や仕事の仕方、個人の生活を大きく変え、従来型のビジネスモデルや業務プロセスを続けていたら、企業経営は立ち行かなくなるかもしれない。

インターネットイニシアティブ(IIJ) 代表取締役社長の勝栄二郎氏
インターネットイニシアティブ(IIJ) 代表取締役社長の勝栄二郎氏

 その変革を可能にするテクノロジーがインターネットやクラウドと、その上に構築するプラットフォームになる。そう主張する勝社長は「全てのモノがインターネットにつながり、全てのモノがインターネット上に構築されるIoT時代に入った」とし、自社クラウドに加えて、IoTや4K/8K映像配信、デジタル通貨などのプラットフォーム作りを始めている。そこから生み出された膨大なデータが行き来し、蓄積したデータを用いて次の一手を予測する時代になるということだ。

 ところが、政府がその基盤となるクラウドを海外ITベンダーに頼り始めているように思える施策を打ち出した。日本の大手ITベンダーや通信会社がパブリッククラウドから事実上撤退し、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureなど海外のクラウドを担ぎ始めたこともあるだろうが、問題は日本人のゲノムや農産物の種子をはじめとする重要な情報やデータを守る役割を担うクラウドへの理解不足にある。力を増す中国のクラウドを売り込む日本企業も出てきており、ユーザー企業がコストなどを考えて、海外の製品やサービスを活用することは当然のことに思えるが、国や自治体の機関は別である。

 「日本が今後、何で飯を食っているのかを官も民も考えていく必要がある」と説く勝社長は、政府が海外クラウドを率先して使うことに懸念があるようだ。データ活用の重要性を理解していたら、国産クラウドを育成、採用するはずだからだろう。勝社長が主張した国産クラウドに賛同する人はいる。国立情報学研究所(NII)の喜連川優所長は2020年12月に開催した同研究所の設立20周年記念講演会のパネルディスカッションで、米大学の自前クラウドへの切り替えなどを例に、研究者や学生らの研究からスキルなどを統合するネットワークインフラの国産クラウド活用を示唆していた。

 クラウドへの移行を加速するのは、レガシーシステムがDX(デジタル変革)の推進を妨げることにある。例えば、官公庁や1800近い自治体、関連組織が異なるハードウェアやソフトウェアをそれぞれで調達し、おおよそ5年サイクルでシステムを更新し、運用をITベンダーなどに外部に任せるなどし、数千億円のIT予算を使ってきたのに、デジタル化の遅れがコロナ対応で露呈し、社会や生活に大きな影響を及ぼした。今秋にも創設されるデジタル庁は、それを変えることに目的の一つがあると言われている。

 そんな時代、ITベンダーの主戦場はユーザーから請け負うシステム構築ではなく、クラウドとその上のプラットフォームになる。実は、約20年前に富士通の秋草直之社長(当時)がインターネットを中核とする事業領域に経営資源を集中するとし、「Everything on the Internet」と呼ぶスローガンを打ち出した。今考えると、インターネット、その先にあるクラウドをインフラとし、プラットフォームやサービスを提供するビジネスを目指したものに思える。

 ところが、全国各地にSE(システムエンジニアリング)子会社を設立するなど、違う方向に進む。PCなど一部のハードウェア事業を売却し、海外製ハードウェアやソフトウェア、クラウドなどを活用したSI(システムインテグレーション)ビジネスで収益を確保しようとしたが、業績は低迷し続ける。

 NECなども同様だ。将来のIT企業像を描けなかったのだろう。SEの確保・育成に力を入れるなどサービスの方向を見間違ったのかもしれない。国のIT産業育成策もIT人材育成に偏り、日本発のハードウェアやソフトウェア、サービスを生み出せなかった。

 結果、大手ITベンダーは海外ITベンダーの商品やサービスを扱うことになり、官公庁や自治体などに次世代システムの基盤に海外クラウドの採用を提案することになったと見られる。残された強みの官公庁と自治体という国内優良顧客を死守するためでもあろう。

 だが、富士通、NECなど大手に再参入を促したい。例えば、富士通はDX企業への変革を宣言した。自前クラウドなしに変身するのは容易なことではないだろう。各社のクラウド人材を集結し、いわゆる“日の丸クラウド”を開発する手もあるが、過去の歴史から“日の丸〇〇”の成功確率は低い。大手が手がけないのなら、IIJなど中堅ITベンダーのクラウドを採用することも可能だ。次を担うITベンダーを育成することでもある。

 新型コロナウイルス感染症の拡大が、日本の政府や企業のDX化の遅れを表面化させた。その一方で、コロナがDX化を求めているのに、2030年の未来は2021年の日本に訪れないことになるのかもしれない。「2025年の崖」から転落し、デジタル化は10年遅れになる。それを何とか避けるべきだ。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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