新しい「水」としてのデータ

オフィス再開に向けたデータの活用法

今井浩 (クリックテック・ジャパン)

2021-03-18 13:13

 世界中で新型コロナウイルス感染症がまん延し、日本では2020年4月7日に東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に最初の緊急事態宣言が発令され、同16日には対象を全国へと拡大しました。あらゆる規模の企業が短期間での対応を迫られ、多くは早急にテクノロジーへの大規模な統合に対応しなければなりませんでした。リモートワークへの道のりは困難でしたが、今ではこの新しい日常になじみ、企業はかつてないほど多くの技術的能力を獲得しました。これは同時に、データへアクセスが増加していることも意味します。

 SaaSベースのアナリティクスツールの登場により、誰もがどこからでもリアルタイムに同じデータへアクセスし、オフィスに集まらずとも協力してビジネスの意思決定を行えます。ただし、データにアクセスしても、データをまとめて分析する能力がなく、データから見出した内容に基づいて意思決定できなければ意味がありません。この新しいビジネス環境で企業の競争力を維持するには、適切なデータを適切な意思決定者に、ほぼリアルタイムかつ確実に届けるデータ戦略を導入する必要があります。

 データを取得するために必要な技術的インフラをほぼ全ての従業員が活用できる今その可能性を最大限に利かす機会が訪れています。人事とオフィスの再開がその最初となるでしょう。人事データは企業において最も価値のあるデータです。なぜなら最も高価なビジネスリソースである人的資源に関するインサイトを提供するからです。

 従って、リアルタイムに人事データが反映されたビジュアライゼーション(視覚化されたデータ)に簡単にアクセスできることが、オフィス再開戦略のカギとなります。以下のポイントをガイドとして使用することで、企業は、事業が行われる地域や従業員のニーズが把握できるビジュアライゼーションを構築することができます。これにより企業は必要に応じて要点を掘り下げる柔軟性を得ることでしょう。

ビジュアライゼーションの重要性

 データを正しくビジュアライゼーション(視覚化)すると、一目で全体像や前後関係を理解し、比較しやすくなります。人間には傾向や相関関係を認識する能力が備わっています。そのため、データからアナリティクスを構築すると、スプレッドシートに記入された情報を理解しようとするよりも簡単に、深く理解できるのです。ビジュアライゼーションがあれば、人事部門や意思決定者は理解しやすい形式でデータをすぐに参照し、従業員に対するリスクをほぼリアルタイムに把握することができます。

 必要な情報を単一の画面に集約して表示する、効果的なダッシュボードの活用には、適切なビジュアライゼーションの選択が非常に重要です。これは、色の使い方からビジュアライゼーションそのものの種類にまで及びます。例えば、1つの色しか使わないKPI(重要業績評価指標)シートは、読み手の判断材料として使いづらいものです。また、よくある問題の1つが、円グラフの使用です。円グラフは必ず100%を表しますが、それはデータの一部しか示していない場合があるのです。積み上げ棒グラフを使用した方が適切な場合が多々あります。もう1つの落とし穴はKPIの計算が合うことの確認です。初歩的なことのようですが、よく忘れられてしまうので注意が必要です。

基本の強化

 最初は、既にある人事データの補強方法を考えるのがいいでしょう。デモグラフィックおよび位置データは、全ての人事部が個人情報ガイドラインに従いながらアクセスできなければならないデータです。この情報があれば、担当者は最初にオフィスに戻るべき人やしばらくリモートワークを続けるべき人をデータに基づいて切り分けることができます。

 このマッピングプロセスは、他のさまざまな状況でも利用することができるでしょう。例えば、地震や台風のような自然災害には、県や市区町村の境界やオフィスといった境界線は関係なく発生します。人為的な「境」を気にせず、従業員の居住地の周りに線を引くことができれば、災害によって影響を受けそうなのは誰かを把握するのに役立ちます。同じ作業をExcelでやろうとすれば、郵便番号解析に何時間もかかることでしょう。

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 人口統計データを地理空間データと組み合わせることで、相対的な概要や従業員個々人のリスク要因も分かります。あるグループの人々にとって新型コロナウイルス重症化のリスクが高いと分かっているなら、人事が該当する社員に注目し、すぐに連絡できるようにしたいと考えるのは自然なことです。従業員が住んでいる場所をマッピングできることに加えて、年齢や性別もまた連絡の優先順位を知るのに役立つはずです。

外部データソースの統合

 このようなチャートに含めることのできる信頼に足る外部データソースはたくさんあります。例えば、当社はジョンズホプキンス大学のデータを利用しました。非常に信頼できる情報源であることが証明されており、世界のほとんど全てのニュース配信元がデータソースとして利用しているほどです。同大学は、次に重要となる課題である、データを簡単に配信できるさまざまな方法を持つ点も満たしています。パンデミックの間、ジョンズホプキンス大学はデータの収集とその提供の最前線にいました。上記と同じ地図に、同大学が持つ新型コロナウイルス感染症のデータを重ねたものを次に示します。

 ここでは、米国におけるオフィス再開を例に、外部データソースの統合の重要性を見ていきましょう。その戦略には、接触者追跡にとどまらず次の4つの点も考えなければなりません。

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  1. 地理的位置によるリスクレベルと従業員の所在を示す生活圏地図の開発とモニタリングが不可欠です。新型コロナウイルス感染症の再拡大は、従業員が今どこにいるのかを知ることがこれまで同様に重要であることを意味します
  2. 日本でも総務省が2020年9月に公表した外国人を含む人口移動報告によると、東京都は転入より転出が3638人多く、7月から3カ月連続の転出超過となりました。テレワークの定着などにより、都心から郊外へ住み替える傾向が続いています。これは、従業員の居住場所をリアルタイムに確定し住居や通勤手当などに反映する必要性を意味します
  3. 従業員の一体感を持たせる活動が従来よりも高いレベルで重要になります。皆がオフィスに集まるわけではないため、従業員のモチベーションや生産性を維持するには、成功を正当に評価し成長を促すことが重要なのは言うまでもありません。従業員リソースグループ(ERGs)、社会集団、メンタルヘルスアプリケーションなど、先見の明のある企業の多くはこれらを非常に重視しています
  4. 採用のデジタル化も企業が行う必要のあるオフィス再開(再開しない場合でも)戦略の一部です。面接、テスト、そしてさらに重要である研修が全て、新しい従業員、または昇進した社員についてどのように新しい役割やチームに適応させ、生産的にするかを考えるときに大きな課題になります

「アクティブインテリジェンス」の重要性

 これほど長期にわたるパンデミックを経験したことがない社会環境下で、将来を予測するために最新のデータを分析することがこれほど重要になったことは過去にありませんでした。あらゆるデータソースからリアルタイムにデータを集め、正確な分析を行い、必要な意思決定と行動を促す「アクティブインテリジェンス」が可能になるように自社のデータを構築する必要があります。アクティブインテリジェンスとはまた、データアナリティクスのためにデータのサプライチェーン全体に埋め込まれた協力体制を推進する、継続的インテリジェンスを実現するためのフレームワーク確立です。

 今はまだ決まったシナリオがあるわけではありません。新型コロナウイルス感染症が始まり、現在も流行の最中にあり、いつ終了するのかはっきりとは分かりません。分かっているのは、働く場所がどこに戻ろうと、それは以前とは異なるということです。パンデミックがもたらす効果は非常に興味深いものになるでしょう。自社の従業員に関わるデータを分析する能力を持つ企業は、市場で良いポジションを占め、従業員に経営の当事者であるという意識を持ってもらうための戦略を発展させ、社員にとって重要であることがビジネスで最優先事項であることを確認することとなるでしょう。

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