レッドハットは4月13日、2021年度の事業戦略を発表した。KubernetesプラットフォームのOpenShiftの展開に注力し、マルチクラウドへの対応やデジタル変革(DX)支援のコンサルティングサービス、5G(第5世代移動体通信)のエコシステムといった領域にフォーカスしていくという。
同日の記者会見には、1月4日付で代表取締役社長に就任した岡玄樹氏が登壇。2020年度にOpenShiftの採用が2800組織を超え、日本では三菱UFJ銀行や三井住友銀行など大手銀行に導入されるなど、ビジネスが好調だったとした。ビジネスを迅速に展開するため、アプリケーションをコンテナーベースとしてOpenShiftで運用管理するニーズが高まっているという。また、DXを推進するために企業文化を変えるというコンサルティングサービスへの引き合いが多いと説明した。
レッドハットの2021年度事業戦略の内容
2021年の事業方針は、「全てのアプリケーションにクラウド選択の自由を」とのスローガンを掲げ、OpenShiftのビジネスに集中すると表明した。市場ではビジネスの「安定性」「迅速展開」「拡大」が求められ、岡氏は、そのためのITソリューションが「オープンハイブリッドクラウド」になると述べた。また、企業組織のDXをIT部門ではなく事業部門が中心になり、先述した企業文化を変えるコンサルティング事業も推進していくという。
OpenShiftの採用事例として、ビジネスの「安定性」ではNECの非接触型生体認証基盤、「迅速展開」では三菱UFJ銀行のシステム基盤、「拡大」ではNTTドコモのシステム運用管理を紹介。「オープンハイブリッドクラウド」は、複数のクラウドを柔軟に使い分ける上でコンテナーベースのアプリケーションが便利であり、また、日本ではオンプレミスのITシステムをクラウドにも展開するハイブリッド構成の利用が求められていることに対応するものとした。
この方針による主な施策では、業界に応じたOpenShiftの具体的な用途を訴求していくとともに、デジタル化が進む金融と公共、5Gの顧客への対応に注力する。また、産業分野ごとの人工知能(AI)システムにおけるシステム基盤での採用も訴求し、認定技術者の育成拡大を進める。人材育成については6月に再度詳細を発表することにしている。
この他には、Amazon Web Services(AWS)とMicrosoft、Googleおよび国内7社のクラウドベンダーにおけるOpenShiftのマネージドサービスの展開に取り組み、Kubernetesを通じたITシステム運用の自動化、自律化を推進する。理化学研究所のスーパーコンピューターシステム「富岳」でも採用されるなど中核ビジネスのRed Hat Enterprise Linuxについては、オンプレミスのメインフレームシステムからオープンシステムやクラウドへの移行ニーズでの活用を継続的に訴求していく。岡氏は、これら施策と並んでDXのコンサルティングサービスを競合との差別化ポイントに位置付けていくとも説明した。
差別化ポイントに挙げるコンサルティングサービスの概要
2021年度の経営目標では、事業規模を2倍に拡大し、選択と集中による顧客ニーズへの的確な対応の実現、「まずリリースして改善を続けていく」というオープンソース文化の日本企業への波及だとしている。
また、事業戦略の発表と併せて5GビジネスにおけるNTTドコモおよびNECとの連携の強化も表明した。ドコモは、自社の1万台を超えるシステムの運用管理でAnsibleを導入しているが、同社常務執行役員 R&Dイノベーション本部長の谷直樹氏は、こうしたレッドハットとの連携を生かして5Gシステムのオープン化の推進に取り組むと述べた。5Gのシステムは、通信事業者が必要に応じてマルチベンダーによる構成をできるようにしており、そこではネットワークなどの仮想化やクラウドベースの運用管理技術が利用されているためになる。
5Gの無線アクセスネットワーク(RAN)のオープン化を推進するNTTドコモの協業の1つにレッドハッドがある
NECとレッドハッドは5G基地局のオープン化で協業する
NECも5Gのシステムや基地局を展開しており、レッドハットとは仮想化を中心とした技術やその利用で連携していく。同社執行役常務の河村厚夫氏は、5GがDXによる社会や文化をも変えていく基盤であり、レッドハットとの協業を通じて「5Gの価値を世界に提供していく」と表明した。
NECの河村氏、NTTドコモの谷氏、レッドハッドの岡氏(左から)