NECは、三菱重工工作機械、NTTドコモ、サンリツオートメイション、構造計画研究所とともに三菱重工工作機械 栗東工場において第5世代移動体通信システム(5G)を活用した工場内の無線化に向けた実証実験を実施した。実施期間は2021年1〜2月の1カ月間。
実証は「変種変量生産に資する制御系ネットワークの無線化」「無軌道型AGVの遠隔制御」「現場作業員を対象とした効率的な機器等の遠隔保守作業支援」の3つのテーマで行われた。
制御系ネットワークの5G無線評価機器
制御系ネットワークの無線化では、工場の制御系ネットワークで利用される産業用EthernetとしてEthernet/IPとCC-Link IEを対象とし、5Gの無線ネットワークを利用した通信の評価を実施した。5G基地局の設定を最適化して産業用Ethernet特有の一定周期の通信(サイクリック通信)を計測し、遅延や停止を0.1秒未満に抑え、長時間の安定した通信が可能であることを検証した。
無軌道型AGVのシステム構成
工場内に設置した基地局用無線ユニット
無軌道型AGV
無軌道型AGVの遠隔制御では、金属遮蔽物が多い工場内で、監視カメラを搭載した無軌道型AGVシステムを稼動させた。この状態で、高精細画像伝送を想定したスループット(通信速度)が常時10Mbps以上となる通信とAGVの制御信号の通信について、途絶することなく同時に行えることを確認した。また同AGVに搭載した監視カメラで遠隔監視しながらNECマルチロボットコントローラーで制御することにより、周囲の環境を把握しながらリモートで作業ができることを検証した。
5Gは無線LANと比べて通信エリアが広い一方で、工場等では遮蔽などの影響で、5G通信エリア端で電波が届きにくいことがあるため、無線LAN装置を追加で設置した。これによりNECのネットワーク仮想化技術を利用し、状況に合わせて最適な通信経路(無線LAN)へ無瞬断で切り替えることができ、制御を止めずに運用できることを確認できた。
遠隔保守作業支援のシステム構成
遠隔保守作業支援の様子
金属加工装置による掘削の様子(遠隔による振動データ収集)
遠隔保守作業支援の検証では、5Gによる映像伝送を利用し、生産設備の保守作業を遠隔支援するシステムをクラウド基盤サービス「NEC Cloud IaaS」上に構築した。その上で現地映像のリモート共有を行い、スマートグラスによる現場作業員への情報提供、ウェブアプリケーションによる遠隔保守員への設備状態に関する情報提供の有効性を検証した。同時に5Gによる振動データ収集、人工知能(AI)によるデータ解析、現場へのフィードバックをリアルタイムで行うことにより、熟練工が現場にいなくても掘削中の工具の摩耗状況などが分かる仕組みを構築した。
その結果、電波環境の情報をクラウドに収集することにより、工場内における動的な電波マップの生成ができることを確認した。また工場特有の要因による無線状況の把握を行い、工場の無線化に向けての多くの知見を収集することができた。