米Red Hatは4月27~28日にかけて、プライベートイベント「Red Hat Summit 2021」をオンライン開催した。29日午前(日本時間)にはアジア太平洋地域の報道関係者向けに同社 社長兼CEO(最高経営責任者)のPaul Cormier氏が質疑応答を行った。
まずは基調講演の内容をざっと振り返り、主な発表について簡潔に整理した。同氏が強調したのは、エッジ分野の強化について。「ハイブリッドクラウドというイノベーションが今やエッジにまで到達した」とした上で、「コンピュートやアナライズがエッジ、すなわち通信業界であれば基地局、製造業であれば工場現場、小売業であれば店舗などで、それぞれ実行されるようになった」という。
Red Hat Summit 2021の基調講演に登壇した米Red Hat 社長兼CEOのPaul Cormier氏
さらに、実行されるアプリケーションは「オンプレミスのベアメタルからプライベートクラウド上の仮想マシン、データセンターやマルチクラウド環境のコンテナーなど、さまざまな形が混在したハイブリッドな状態で、それらがエッジにも展開される」とする。
同社では数年来、「オープンハイブリッドクラウド」というコンセプトを掲げている。この考え方が、従来のデータセンターからクラウドを経てエッジにまで到達した、というのが今回の大きなメッセージとなった。
新しいマネージドサービスも紹介された。同社は数年前から「Red Hat OpenShift」のマネージドサービスを提供しているが、新サービスとして「Red Hat OpenShift API Management」「Red Hat OpenShift Streams for Apache Kafka」「Red Hat OpenShift Data Science」が発表された。
さらに、ボストン大学との提携を強化し、同社が5億7000万ドル相当の寄付(5億5510万ドル相当のソフトウェアサブスクリプションと2000万ドルの研究費)を行うことも発表された。オープンソースソフトウェアの研究を推進し、多くのCIO(最高情報責任者)が直面している「多数のクラウドを運用管理することの困難さ」を解決できるようなソフトウェアやツール、スキルセットなどの開発に取り組むという。
なお、多くの企業ユーザーが多数のクラウドを併用するハイブリッド/マルチクラウド環境にあることを端的に表現する言葉として、Cormier氏は「全てのCIOはクラウドオペレーターである」と表現している。
IBMとの関係についての質問に対しては、「Red Hatは独立を維持しており、戦略も独自に立案する」(同氏)とした。同社から見ると、IBMは「パートナー」であり「中立的な立場を堅持」するため、「価格などについても、IBMとその競合他社との間で差をつけたりはしない」という。
これについて、Red Hatとしては従来と何も変わらないということを改めて強調した形であり、かつ同社の立場からはそうするのが最善だという判断になるのはごく自然なことではあるが、逆にIBMから見るとどうなのかという点が気になるところだ。
中立的な立場の独立企業としてのRed Hatと密接なパートナーシップを構築するというのは、別に買収するまでもなく可能であったと思われるし、実際に買収前の両社の関係はそうしたものになっていたといえるだろう。そうなると、IBMの業績が好調なうちは問題ないだろうが、いずれ「巨額の買収を行った成果として何を得たのか」が問われる状況にならないとも限らない。
よく似た状況にあったと思われるVMwareがDell Technologiesから再び独立することになったという例もあることから、Red Hatが再び独立企業に戻る可能性もありそうだ。