DXの推進へデザイン思考は重要なコンピテンシーに
以上が発表の概要だが、今回この教育プログラムを取り上げたのは、この機会に「サービスデザイン」について考察してみたかったからだ。
経産省の定義によると、サービスデザインとは「顧客体験のみならず、顧客体験を継続的に実現するための組織と仕組みをデザインすることで新たな価値を創出するための方法論」とのこと。ただ、これでは少し難しいので、筆者は「デザイン思考を活用して新たなビジネスやサービスを創出する手法」と解釈している。
キーワードは「デザイン思考」だが、経産省の定義にある「顧客体験」、これをグローバルに通じる言葉で言えば「Customer Experience(CX)」あるいは「User Experience(UX)」も非常に重要な要素となる。
サービスデザインという表現は、日本ではまだあまり馴染みがないが、とくに欧州の企業では新たな取り組みとして注目されている。この分野で活動するデザインマネジメント国際団体のDesign Management Institute(DMI)は研究発表で、「サービスデザインを重視する企業は、そうでない企業と比べて10年間の業績が2倍以上、成長している」と報告している。
NECの今回の発表に向け、同社執行役員の吉崎敏文氏が寄せたコメントも印象的だったので、以下に記しておこう。
「DX推進のために、デザイン思考は重要なコンピテンシーの一つと考える。今回NECアカデミーの中にデザインが加わることを大変嬉しく思う。これをきっかけに、HCD(Human Centered Design:人間中心の設計)やExperience Designにおいて歴史のあるNECの専門家の知見で、世界中のお客さまのDXの加速に貢献することを期待している」
吉崎氏もデザイン思考をキーワードに挙げている。そのデザイン思考には、「デザイナーのような発想」という意味も込められている。
そこで、この機に、日本の工業デザイン界の第一人者である川崎和男氏の名言を以下に紹介しておこう。
「橋をデザインしてくださいという頼み方はしないでほしい。川を渡る方法論を考えるべき。渡し船がいるのか、海底トンネルにすればいいのか、それともやはり橋なのか。さまざまな角度から考えることが本当のデザインである」
医学博士でITにも精通した川崎氏には、筆者もかつてインタビューしたことがある。せっかくなのでその際に印象的だった発言も紹介しておこう。
「情報としてこれから求められるのは、人の生き方のコンテクスト(文脈)のようなものではないか。そこでは“経験の質”が重要な要素になる。そう考えていくと“Quality of Life”というのは、実は“Quality of Experience”にほかならない」
今回のサービスデザインの話とともに、川崎氏の言葉が読者諸氏の何かの気づきになれば幸いである。