金融業界でもクラウド移行が本格化--マイクロソフトが動向紹介

阿久津良和

2021-06-23 06:00

 日本マイクロソフトは6月22日、金融サービス業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の取り組みについて記者説明会を開催した。北國銀行、三菱UFJファイナンシャルグループ(MUFG)、ジェーシービー(JCB)の事例などを紹介した。

 国内で同社は、北國銀行や日本ユニシスと、Microsoft Azure上で勘定系システム「BankVision」に取り組み、5月3日に本稼働を開始させている。エンタープライズ事業本部長 執行役員 常務の五十嵐毅氏は、「人に注目した切り口で(各業種でのDX推進を)提案できる。一つはインフラなど人手をかけるべきではない領域。もう一つはセキュリティなど、人では追いつけない領域。最後はDXなど人手をかける領域」と取り組みでの姿勢を語り、2021年7月に始まる同社の新事業年度において産業別DX推進の強化に努めるとした。

クラウドへの取り組みを紹介した北國銀行 取締役頭取の杖村修司氏、日本マイクロソフト エンタープライズ事業本長 執行役員 常務の五十嵐毅氏、同業務執行役員 金融イノベーション本部長の藤井達人氏(左から)
クラウドへの取り組みを紹介した北國銀行 取締役頭取の杖村修司氏、日本マイクロソフト エンタープライズ事業本長 執行役員 常務の五十嵐毅氏、同業務執行役員 金融イノベーション本部長の藤井達人氏(左から)

 米Microsoftは、4月にAXAと次世代医療サービスと福祉サービスの標準化を目指したプラットフォームの構築で提携しており、6月にはMorgan Stanleyとも協業を発表。顧客体験の変革をクラウドで実現するために業務基盤をMicrosoft Azureへ移行させた。2月に発表とパブリックプレビューの提供を開始した「Microsoft Cloud for Financial Services(MCFS)」の採用も発表している。

 MCFSは、金融サービス業界向けのクラウドとして、口座開設やローン申請など業務内容に適した機能を、Microsoft AzureやDynamics 365などに構築して提供するもの。「現在は欧米の複数の金融機関がテスト運用をしている。正式版や日本市場での提供時期は未定」(日本マイクロソフト 業務執行役員 金融イノベーション本部長の藤井達人氏)とのことだが、藤井氏は「(金融業界も)DXを実現する機能を求めており、多くの要望からMCFSの開発に至っている。このニーズは日本も同様で、パートナー企業とともに提供したい」と、国内展開の可能性を匂わせた。

Microsoft Cloud for Financial Servicesの主な機能
Microsoft Cloud for Financial Servicesの主な機能

 国内における金融業界のクラウド移行は進んでいるという。オンプレミスのMicrosoft製品を採用してきたMUFGでは、グループ企業の共同システム基盤としてMicrosoft Azureを採用。合わせて三菱UFJモルガン・スタンレー証券が、Windows Serverなどのサポート終了を踏まえて、リスク管理システムをクラウド化した。「クラウドでもオンプレミスと同等のセキュリティレベルを確保し、Linuxのサポートもほかのパブリッククラウドと比較して見劣りしない」(藤井氏)が選定理由であるという。

MUFGにおけるクラウド化への取り組み状況
MUFGにおけるクラウド化への取り組み状況

 JCBでは、自社のリモートワーク基盤として、Azure Virtual Desktop(旧称:Windows Virtual Desktop)を採用。「2018年からイノベーション統括部の主導でリモートワーク環境の整備が始まり、2019年は他社製のVDIソリューションを採用したが、最終的にはマイクロソフトを採用いただき、現在は段階的な導入に至っている。Microsoft Teamsなどコミュニケーションツールとの親和性や、問い合わせ応答や協力企業との相性もレベルが高かった」(藤井氏)としている。

JCBにおけるクラウド化への取り組み状況
JCBにおけるクラウド化への取り組み状況

 BankVisionを稼働させた北國銀行でのクラウド移行は、2019年に着手した。同行取締役頭取の杖村修司氏は、「個人用のクラウドバンキングの提供を開始し、2021年春には法人向けの提供も予定している。勘定系システムのクラウド化も現在はIaaSだが、2024年に向けてPaaS化にしていく。100を超えるサブシステムについては、オンプレミスかつカスタマイズ済みパッケージだが、一部は内製化に着手した。2021年末にはCRM(顧客関係管理)と融資支援システムをDynamics 365で運用する」と、クラウドの展開計画を説明した。

 また同行は、IT投資コストの見直しにも着手。これまでは勘定系システムで使用するOS費用が大半を占めていたが、前述したクラウド移行やシステム開発の内製化に伴い、運用や保守コストを削減する。ライセンス費用が増加するものの、「開発スピードを妨げない。クラウドファーストで構築し、保守・運用負担の軽減を戦略の中核に置いている」(枝村氏)と、IT投資コストの増加を痛みとは捉えず、戦略的投資を継続すると述べた。

北國銀行のクラウド移行スケジュール
北國銀行のクラウド移行スケジュール

 他方で枝村氏は、勘定系システムの役割が極小化していくとも述べた。「法人のデジタルバンクや店頭でのタブレット端末など全てがシームレスにMicrosoft Azureで動作し、勘定系とつながっていく。ただ、膨大なサブシステムを新たな勘定系をつなげることは、負担や課題が大きい。2024年以降は全てのサブシステムを導入する必要はない」とし、地方銀行が実現する金融サービスの形を提示した。「われわれは『bankvision Family of Azure』と呼んでいるが、クラウドシステムをITパートナーに無償提供し、価値観と戦略を共有できる中小金融機関への展開を描いている」とも語っている。

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