デジタルトランスフォーメーション(DX)は、ITの世界にとどまらずビジネス変革に不可欠なキーワードだ。しかし、真に競争力を備えるためのDXとはどんなものか、そのためにどのような基盤が求められるかについての言及は意外に少ない。
ここでは、前編でDXの推進に必要な「ポストモダンERP」と呼ばれる新世代ERPを、後編ではDXの推進においてビジネスプロセスをERPに適用するためのアプローチについて紹介する。
従来型ERPを使い続ける足かせ
現在、多くの企業が導入しているERPは「Enterprise Resource Planning」の略である。「ERP=統合基幹業務システム」をイメージする人も多いだろうが、元々は企業の経営資源を見直し、経営効率化を図るための手法や概念を指し、そのために用いられるソフトウェアがERPとして認知され、普及していくことになる。
ERPが日本に登場した1990年代、日本企業の多くが独自開発の業務システムを利用していた。「当社の業務に最適なシステムとするためには、既成のソフトウェアは駄目だ。独自開発したものではなくては」というのが当時の企業が主張していたことだ。
ところが、1990年代にバブルが弾けたことで、日本企業はBPR(Business Process Re-engineering)とともにパッケージソフトであるERPを導入することで変革を目指す。改革を進める日本企業の旗印としてERPは普及し始めた。
それから時間が経過し、改革の旗印だった従来型ERPは企業にとって足かせになりつつある。それは現代のビジネスモデルに対応する新しい企業像に合致しなくなったからだ。現在、ビジネスモデルは、以下のデジタルトレンドにあわせて変化してきている。
- カスタマーエンゲージメント
情報武装した顧客は、購買行動を常に変化させる。顧客の変化を捉えて迅速に展開することが、製品やサービスそのものより重要となっている。 - データエコノミー
かつて重視されたヒト、モノ、カネ以上にデータが重要な企業資産になってきている。あらゆるデータを収集して、人工知能(AI)や機械学習により分析して、製品やサービスを継続的に向上させる。新たなビジネスを創成するのにもデータ活用が欠かせない。 - サービス主導の拡大
かつて日本ではハードのおまけだったサービスだが、現在はビジネスの主役に。企業は、収益性のあるサービスモデルを確保するだけではなく、生産性を最大化するための適切なスキルセットを採用、保持しなければならない。 - スマート製品
常時ネットワークに接続されたデバイスが増加し、モバイル端末が個人に行き渡ることで、ビジネスモデルに大きな影響を与える。 - サプライチェーン
サプライチェーンは、地政学的な争いや気候、パンデミックなどにより市場に不確実性と変動性を引き起こしており、どの業界においてもサプライチェーンマネジメントが課題となっている。2021年3月に発生した、スエズ運河の事故が象徴的で、荷物は無事だったものの、重要な貿易ルートが封鎖されたことで、経済に大きなダメージを与えた。