企業セキュリティの歩き方

クラウドサービス利用で考えること--日本のITに影響した経済の「失われた30年」

武田一城

2021-07-02 11:30

 本連載「企業セキュリティの歩き方」では、セキュリティ業界を取り巻く現状や課題、問題点をひもときながら、サイバーセキュリティを向上させていくための視点やヒントを提示する。

 前回までクラウドサービスを利用する際の注意点として、設定ミスが起きやすいなどの運用面、ベンダー側の都合で想定外のトラブルが発生し得る可能性、そして、世界における日本市場の存在感が相対的に縮小したことにより、海外ベンダーが多いクラウドサービスでは日本市場への対応が重視されなくなった悲しい事実について述べた。この事実は、第二次世界大戦の敗戦から奇跡的な高度経済成長を遂げた日本にとって、にわかに受け入れがたいかもしれない。今回は日本のIT環境に影響した経済の「失われた30年」とIT市場に起きた変化について述べていきたい。

可能性を強く感じたインターネット草創期

 筆者が学生だった1990年代中盤は、世間で「IT革命」という言葉と、それにより一変する世の中が話題になる時代だった。それでも、現在のようなスマートフォンを使って、いつでもどこでも世界中とコミュニケーションをしたり、情報を収集したりできるということではなかった。

 その頃のPCは、CPUの動作周波数がまだ100MHzに満たず、HDDの容量は数十MBと、今では信じられない低い処理能力や記憶能力だった時代だ。それでも若手社会人の月収やボーナスほどの金額をはたいて「Pentium」というブランド名が付いたインテルのCPUとブラウン管ディスプレイによるPCを購入し、目を輝かせていた。

 その高価なPCを購入した人の“特権”として手に入れたのが、インターネットへの接続だ。しかし、当時のインターネットは、動画はもちろん画像もそれほど掲載されていない文字ばかりの情報だった。それでも、単にウェブサイトを閲覧するだけの行為を意味する「ネットサーフィン」という言葉自体が「最高にカッコいい!」ともてはやされる時代であった。

 当時の通信回線は、とんでもなく細い通信帯域だ。現在20代以下の方は信じられないだろうが、実質40k~50kbps程度の通信速度しか出ないアナログモデムが主流で、64kbpsの通信速度のISDN(Integrated Services Digital Network)回線が「最先端のデジタル通信」と言われるような時代だった。

 さらに、インターネットにはプロバイダーへの電話回線を経由して接続する仕組みだった。つまり通話料がかかるのだ。そのため、23時以降の深夜帯だけ定額になる「テレホーダイ」というプランがあり、それが当たり前のように契約されていた時代でもあった。これは時折“インターネット老人会”の常識と言われるような古き良き時代を表す懐かしい言葉としてネタのようにも扱われる。

 また、インターネット接続が身近になったのは、「Windows 95」という現在のWindows 10の先祖に当たるOSの発売の影響も大きい。Windows 95によって機械やマイコンなどが好きなマニア層に限定されてPCが一般にも一気に普及していく発端になったからだ。

 同時代には、AppleがこれまでのPCとはデザインなどで一線を画す「iMac」というカラフルで部屋に置いておいてもヘンにサイバーな感じにはならないおしゃれなコンピューターを発売した影響も大きかった。現在からすれば、単に「コンピューターを利用してインターネットに接続」をするだけのことだが、それでも当時は「革命」と称されるほどの大事件だった。

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