多くの企業がデジタル変革(DX)に取り組んでいますが、その推進は必ずしも順風満帆とはいえない状況です。DXの推進には多数の施策と組織カルチャーを含む大きな変革が伴うものですが、このような変革を成功に導くために、チェンジマネジメントの重要性が再び注目を集めています。
なぜ、DXがうまく進まないのか
多くの企業がDXに取り組んでいますが、その推進が順風満帆といえる企業は必ずしも多くありません。DXが遅々として進まない、活動が社内に広がっていかない、定着せずに一過性の取り組みにとどまってしまうといった事態が多く見られます。多くの企業では、DXを主体的に推進するための専門組織を設置する動きを活発化させていますが、実際のDX施策の実行対象となる事業部門などの参加や協力が得られず、DX推進組織が孤軍奮闘する姿も垣間見られます。また、一度DX施策によって業務やビジネスを変革したとしても、長続きせず、元の状態に戻ってしまうという声も聞かれます。
このようにDXがうまく進まない大きな要因の一つに「人の変化に対する抵抗」の存在が挙げられます。変化に対する抵抗は、「今のままでもうまくいっている」「変化の必要性を感じない」といった「現状肯定」と、「ITやデジタル化についていけない」「自分の立場や仕事を失うかもしれない」という「将来不安」から形成されています(図1)。このような従業員一人ひとりの心の中にある「現状肯定」や「将来不安」を打破することができなければ、いかに経営者が旗を振り、DX推進者が奮闘しても、会社全体を突き動かすことはできませんし、デジタルを前提とした組織カルチャーを根付かせることは困難といえます。
※クリックすると拡大画像が見られます
チェンジマネジメントとは何か
これまで成功を収めてきた企業、特に国内の伝統的大企業では、DXの推進において組織カルチャーを含む大きな変革が求められます。このような変革を成功に導くためのチェンジマネジメントの必要性について考えてみましょう。
プロジェクトを遂行するためにプロジェクト管理が必要であることは広く認知されていますが、変革を推進する際に変革のマネジメント、すなわちチェンジマネジメントが重要であることはあまり認識されていません。不確実性の時代といわれる今日において、グローバル競争の激化、テクノロジーの急速な進展、顧客ニーズの多様化などにより、企業は常に変革を迫られており、さまざまな変革に関するプロジェクトを立ち上げ、推進しています。
しかし、DXに限らず、企業が取り組むさまざまな変革プロジェクトの成功率は決して高くありません。失敗や停滞の原因の多くは、従業員の反発、改革意識の欠如、従来のやり方への固執など、「変化に対する人の抵抗」に起因していると考えられます。チェンジマネジメントは、このような「人の抵抗」という課題に向き合うために生まれたといわれています。
日本チェンジマネジメント協会では、チェンジマネジメントとは、「人が変化を受け入れ、新しい状態にいち早く移行できるように支援する手法であり、チェンジマネジメントを適切に行うことにより、変革プロジェクトの成功率を上げることができる」と述べています。つまり、プロジェクト管理では、品質・コスト・納期を管理することに焦点が当てられていますが、チェンジマネジメントでは、人の意識や考え方に焦点が当てられます(図2)。
※クリックすると拡大画像が見られます
DXとチェンジマネジメントの関係
DXの推進は個別のプロジェクトではなく、多岐にわたるプロジェクトを組み合わせた変革プログラムと捉えるべきです。そこに包含されるプロジェクトの中には、データやデジタル技術を活用して既存事業を高度化させる「漸進型イノベーション(深化)」と、新規サービスの創出やビジネスモデルの転換を実現する「不連続型イノベーション(探索)」といった2つのタイプのDXの実践に該当するものもあります。また、組織や制度などに関わる企業内変革や、旧来のITインフラを再整備するものやシステムの開発・運用プロセスを変革するような「DXの環境整備」に該当するものも含まれます。
従って、DXを推進するためには、個々のプロジェクトを円滑に遂行するためのプロジェクト管理に加えて、これらをポートフォリオで管理し、優先順位や取捨選択などの調整を行うことで全体のバランスを保ちつつ、必要な支援を提供するプログラムマネジメントが必要となります。プログラムマネジメントは、プロジェクト管理の上位に位置し、同時並行的に進められている相互に関連するプロジェクト群を全体的に管理するプロセスといえます。プロジェクト管理は、個々のプロジェクトの品質・コスト・納期を順守するための技術的側面と、手順や進捗といったプロセス的側面に焦点を当てた管理が主な対象範囲となります。
一方、チェンジマネジメントは、変革に伴って必要となる個人の意識、動機付け、行動様式、組織カルチャーといった人的側面に焦点を当てた管理を担います(図3)。また、プログラムレベル、プロジェクトレベル、そして個人レベルのそれぞれに対して、適切なチェンジマネジメントを遂行するチェンジリーダーを置くことが有効と考えられます。中でもプログラムレベルのチェンジリーダーは、経営層が務めることが望ましいといえます。
※クリックすると拡大画像が見られます