ITの価値を最大化する「TBM」--テクノロジーの経営資源を統合管理

阿久津良和

2021-07-27 07:00

 米非営利団体「TBM Council」の日本支部として2021年4月に「TBM Council Japan」が設立され、ITにまつわるリソース(人・物・金)を管理する「TBM(Technology Business Management)」と呼ばれる方法論が注目を集めている。同団体設立の狙いと役割を、ボードメンバーに名を連ねるApptio 代表取締役社長の成塚歩氏に聞いた。

Apptio 代表取締役社長 成塚歩氏
Apptio 代表取締役社長 成塚歩氏

 TBMは2007年にApptio創業者のSunny Gupta氏が提唱した方法論である。ITにまつわるリソース(人・物・金)と投資ニーズを統合的に管理し、IT価値の最大化を実践する手法になる。昨今のようにDX(デジタル変革)の潮流が中小企業にまで広がり、コロナ禍のように急激な環境変化の中でも、事業継続性の維持と成長を目指す上で欠かせない。

 TBMの考え方は、製造業のMRP(Material Requirement Planning)によるサプライチェーンの最適化を起源とする。後にMRPはマーケティングの領域にも影響を与え、1992年ごろにはマーケティングオートメーション(MA)によるマーケティングサプライチェーンの最適化として取り込まれていった。そして、2007年に企業内ITサプライチェーンの最適化を目指した取り組みとしてTBMが誕生し、2012年に非営利団体のTBM Councilが米国に設立された。

 TBM Councilは、ITコスト管理の課題や進化するテクノロジー投資を含めたIT部門のマネジメントについて知見を共有する場として、現在、世界1万1500人以上のCIO(最高情報責任者)やCFO(最高財務責任者)を中心とする会員が参画する。

 TBMを実践する上でのベストプラクティスを定義したのが「TBM Taxonomy」で、最新版は2020年12月に承認されたバージョン4.0。「機能アップデートは毎月のように出てくる。例えば、インサイト&アクションといった機能は3カ月程度で実装した」と成塚氏は話す。

TBM Taxonomy 4.0の構造
TBM Taxonomy 4.0の構造

 IT予算の最適化にTBMを用いる企業は多い。例えば、米Bank of Americaは、カスタム開発したIT投資管理システムの不透明さに苦慮した結果、ApptioのTBMソリューションを導入した。その結果、導入後6カ月で予実管理と予測精度を改善し、3年間で20億ドルのコスト削減に成功している。同じく米国の金融サービス企業であるJP Morgan Chaseも、IT部門とビジネス部門の共通言語を構築できず、現場に不満の声が高まっていた。TBMを導入することでIT費用と利用状況を可視化し、年間1000万ドルのコスト削減や400万ドル分の課題を抱える領域の特定を実現している。

 ドイツのDeutsche BankもIT投資のコスト構造を可視化する手法に苦心していた。既存システムの利用状況を確認できず、コスト増につながっていたという。同行はApptioでIT投資と消費状況を可視化し、工程数の83%を削減。また、支出最適化を実現することでIT運用費の3%を成長投資に切り替えている。

TBMを基盤に構築したApptioのソリューション
TBMを基盤に構築したApptioのソリューション

 TBM Councilは24人のボードリーダー下に米国支部、EMEA(欧州、中東、アフリカ)支部、APAC(アジア太平洋)支部の地域顧問委員会が並んでいるが、ここに日本単独のTBM Council Japanが加わった。ボードメンバーとして資生堂、楽天グループ、Apptioなど5社が参画し、TBMに関する情報共有や各社の取り組みを共有している。

 TBM Councilには、世界の各支部からさまざまな要望が集まっている。設立直後とあってTBM Council Japanは「オーディエンス的な立場」(成塚氏)だが、5月には初の「TBM Council Japan Round Table」を開催。最高情報責任者(CIO)向け、ITリーダー向けなど、テーマごとに区分けした分科会を用意した。その理由として、同氏は「『CIOの前では話しづらい』『ITリーダー同士で会話したい』との声に応えた」という。

 さらに、「開催頻度を増やしてほしいとのフィードバックを踏まえて、(ラウンドテーブルを)年3、4回程度に拡張する予定」(成塚氏)だ。9月にはグローバルイベントの「TBM Conference 21」、10月には国内パートナーを含めて広く参加を募る「TBM Conference Japan」、12月には2回目のラウンドテーブル開催を予定している。

 現在のTBM Council JapanはApptioユーザー限定の集まりだが、門戸を閉ざしていない。「(米国のTBM Councilは)TBMに賛同していただければ誰でも参加可能。毎月CIOの事例動画を配信している。ただ、TBM Council Japanは運営資源が足りず、コンテンツの日本語化など一つ一つ進めている」(成塚氏)状態だという。

 TBM Council JapanはApptioが運営事務局を兼ねている点について尋ねると、成塚氏は「(運営を)やっていただける方がいればお願いしたい。TBM Councilの各支部は(別企業が主体となって)運営している」とした。

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