本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏と、インフォアジャパン 執行役員ソリューションコンサルティング本部 本部長の石田雅久氏の発言を紹介する。
「IBMにとって日本は特別なパートナー。量子の世界を共に切り開いていきたい」
(日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏)
日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏
東京大学とIBMは7月27日、国内で初めて設置したゲート型商用量子コンピューターシステム「IBM Quantum System One」を「新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター(KBIC)」において稼働開始させたと発表した。山口氏の冒頭の発言はその発表会見で、同システムの活用に向けて意気込みを示したものである。
同システムの稼働は、2019年12月にIBMと東京大学で発表した「Japan-IBM Quantum Partnership」に基づくもので、東京大学が同システムの占有使用権を有し、企業、公的団体や大学などの研究機関と活用に関する協力を進めていく構えだ。
現地での会見の内容については関連記事をご覧いただくとして、ここでは山口氏の発言に注目したい。
会見の様子を示した写真1に写っている産官学分野の関係各氏の中で最後に挨拶した同氏は、次のようなエピソードを話題に上げた。
「今日は2回目の東京オリンピックが始まって間もないが、実は1回目が開かれた1964年に米国で汎用コンピューターの『IBM System/360』が世に登場し、翌年には日本でも導入されて多くのお客さまに利用していただいた。そして今回、2回目の東京オリンピックの開催中に量子コンピューターが日本で稼働を開始した。最新のコンピューターを活用するという夢を再び実現していきたい」
写真1:記者会見の様子。左から、川崎市長の福田紀彦氏、日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏、東京大学教授・元総長の五神真氏、東京大学教授の村尾美緒氏、参議院議員自由民主党量子技術推進議員連盟会長の林芳正氏、東京大学総長の藤井輝夫氏、IBMシニアバイスプレジデント/IBM ResearchディレクターのDario Gil氏、文部科学大臣の萩生田光一氏、慶應義塾長の伊藤公平氏、駐日米国臨時代理大使のRaymond Greene(レイモンド・グリーン)氏、QII協議会会長/みずほフィナンシャルグループ取締役会長の佐藤康博氏、QII協議会メンバー/JSR名誉会長の小柴満信氏
伝説のコンピューターであるIBM System/360については、本サイトで過去に掲載された写真満載の記事があったので参照していただきたい。
さらに、同氏は米国IBMの立場から次のように話した。
「IBMは、日本が極めて量子戦略に積極的で、この分野で高い技術力をお持ちの企業や大学が数多く存在することを承知しており、日本が特別なパートナーだと確信している。これからもしっかりと手を携えて、量子の世界を共に切り開いていきたい」
冒頭の発言は、このコメントから抜粋したものである。ここで言うIBMは「米国」と置き換えてもいいかもしれない。会見にはIBM米国本社からもシニアバイスプレジデントでIBM ResearchディレクターのDario Gil(ダリオ・ギル)氏がオンラインで参加していたが、山口氏も日本IBMトップとして存在感を示していたというのが、筆者の印象だ。
最近では、量子やAI(人工知能)などの先端技術の研究開発において、米国が中国に危機感を抱いているとの話も耳に入ってくるようになった。米国にとって日本は地政学的にも重要な存在だ。山口氏のコメントに、そんなことも少し頭をよぎった会見だった。