東京大学と米IBMは7月27日、国内に初めて設置したゲート型商用量子コンピューターシステム「IBM Quantum System One」の稼働を開始した。同システムを日本で占有的に利用できるようになり、化学や素材・原材料、金融、人工知能(AI)などの領域での活用が期待される。
「かわさき新産業創造センター」に日本で初めて設置されたIBM Quantum System One
国内のシステムは27量子ビットプロセッサー「Falcon」を採用している
超伝導状態の維持するための冷凍機は高さが約1.5メートルという
IBM Quantum System Oneの日本での設置は、2019年12月に東大とIBMが締結した「Japan–IBM Quantum Partnership」に基づくもので、米国以外は、6月に設置されたばかりのドイツに続いて2カ国目。27量子ビットのシステムとなる。神奈川県川崎市の「かわさき新産業創造センター」に置かれ、東大がシステムの占有使用権を保有し、企業や研究機関と活用していく。川崎市への設置に関しては、6月に東大とIBM、川崎市が6月に基本協定書を締結し、かわさき新産業創造センターにおける電気や冷却水、ガスのインフラ安定供給と耐振動環境などの整備を進めてきた。
同日の記念式典に参加した東大の藤井輝男総長は、「量子コンピューターの社会実装を推進していくとともに、未踏領域を含むさまざまな地球、社会の課題解決につなげたい」と述べた。萩生田光一文部科学大臣は、「量子コンピューターをめぐる国家間の競争が激化する中で日米連携の象徴的な取り組みになる」とあいさつした。
東京大学の藤井輝男総長
これまでIBM製量子コンピューターの国内での商用利用は、2018年に慶應義塾大学に開設された「IBM Qネットワークハブ」を通じて米国にあるシステムにアクセスする形だった。
式典で慶応義塾の伊東公平塾長は、「簡単に言えば、IBMの量子コンピューターは、すごいシステム。2018年から使い倒すように利用しているが、当初は赤ん坊のようなシステムが2カ月ごとに良くなり、現在では幼稚園の運動会で活躍するかのように、さまざまなことができるレベルにまでなった。これまでの取り組みに満足しているところ、東大がシステムそのものを日本に持ってきたことに大きな意義がある」と語った。
日本IBMの山口明夫社長も、「日本初、アジアでも初の商用システムの実機を川崎に設置し、利用者にお見せできるようになった。テクノロジーへの強い期待の高まりとともに新たなスタートになる。IBMにとって日本は特別なパートナーであり、今後も研究開発投資を積極的に行っていく」と表明した。
日本IBMの山口明夫社長
国内では、量子コンピューターの本格的な活用に向けた環境準備が進んでおり、5月にはITや製造、金融分野の11社が「量子技術による新産業創出協議会」の設立を表明。今回国内に設置されたIBM Quantum System Oneも利用するという。また、東大と日本IBMは6月に、量子コンピューターのハードウェアの検証施設「The University of Tokyo - IBM Quantum Hardware Test Center」を東大浅野キャンパス内に開設。IBM Quantum System Oneでは、半導体を中心に日本製品が採用されているとのことだが、海外製となっている制御機器や冷凍機、コンプレッサーなどについても国産技術の育成を支援していく。
日本IBM 東京基礎研究所の山道新太郎 新川崎事業所長によれば、国内でのIBM Quantum System Oneの設置は、同社の日本人メンバーが米国とオンラインで連携しながら作業に当たったという。構築期間や作業内容などは非開示とされたが、「日本で実際のシステムに触れられるようになったことが重要」(山道氏)と、今回の設置が日本での量子コンピューター人材の育成における大きな転機になるとの意義を強調した。
設置式典の様子