さくらインターネットは9月9日、2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震に伴う大規模停電の経験を生かした防災対策に関して、報道関係者向けにオンライン説明会を開催した。同社の取締役で札幌市在住の前田章博氏が説明した。
さくらインターネット 取締役 前田章博氏
北海道胆振東部地震について振り返っておくと、2018年9月6日の午前3時過ぎに北海道胆振地方中東部を震央として発生した地震で、規模はマグニチュード6.7で最大震度は震度7を記録した。地震による土砂崩れで30人以上の死者が出たほか、道内で使用される電気の半分以上を供給する道内最大規模の苫東厚真火力発電所が震源に近い場所だったことから被災して運転停止に追い込まれ、電力の需給バランスが崩れたことから他の発電所や送電設備にも連鎖的に影響が及び、離島を除く道内全域での大規模停電(ブラックアウト)が発生した。
さくらインターネット 石狩データセンターの概要。北海道胆振東部地震の震源からは札幌市街を越えた先に当たり、直線距離では約70kmほど離れている
さくらインターネットの石狩データセンターはこのときSNSを通じて情報発信を行っており、停電を受けて自家発電設備による電力供給に切り替えたものの、道内全域が被災範囲に含まれるという想定外の大規模災害だったことから事前に想定していた燃料調達手段も思うように機能せず、自家発電設備の燃料切れによる運用停止もあり得るか、という緊迫した状態が刻々伝えられたのをリアルタイムで注視していた人も多いのではないだろうか。実は筆者自身が当時リアルタイムにこうした状況を見ていたこともあり、そのとき現場で何が起こっていたのかを3年を経て改めて確認する機会となった。なお、このときは結果として燃料切れには至らず多くの関係者が安堵したのもご存じの通りである。
石狩データセンターは間もなく開所10周年を迎える。将来的には全5棟で完成する計画だが、現在は3号棟まで完成している状況で、被災時点でも現在と同じ状況だった。震災発生は午前3時7分39秒で、深夜であったが同氏は地震直後に社員と電話連絡などを開始していたところ、18分後の3時25分にはブラックアウトが発生したという。石狩データセンターでの揺れは震度5弱だったそうで、規模としては設計の想定内であり、揺れによる直接的な被害は室内の本棚から本やファイルが落ちた程度で建物や設備が破損するようなことはなかったという。
さくらインターネット 石狩データセンターの概要。北海道胆振東部地震の震源からは札幌市街を越えた先に当たり、直線距離では約70kmほど離れている
9月6日午前3時8分に電力会社からの送電が停止し、すぐにUPS(無停電電源装置)でIT機器の運用を支えつつ非常用発電機の運転が自動的に開始され、非常用発電機からの給電に切り替わった。この時点では設置されていた非常用発電機が全機運転していたが、約21時間後の9月7日午前0時26分に北海道電力からの給電が一部復旧、石狩データセンターの稼働に必要な電力の約50%が復電したことで非常用発電機も約半分を停止することで燃料消費を抑え、より長期間の運転が可能になったという。この時点で燃料にはかなりの余裕が生じたということで、燃料切れの懸念が本当に心配されたのは約1日の間だったということになる。
ちなみに、備蓄燃料はデータセンターとしては標準的な48時間分だった。そこから約15時間後の9月7日15時00分頃には非常用発電機のための燃料の給油を受けることができたそうで、この時点で商用電源復旧までの運用継続にほぼめどが立ったという形だ。最終的には9月8日14時5分に商用電源が全復旧し、非常用発電機は全台停止された。非常用発電機の総稼働時間は約60時間に達しており、想定の備蓄量であった48時間分だけでは不足する可能性が実際にあったことになる。
北海道胆振東部地震発生から商用電源復旧までの経緯
同氏は「自分たちの非常用発電機で60時間を乗り切ったというのは世界的に見てもまれな例ではないか」と語り、この被災経験が一般的なデータセンターの運用ノウハウで対策されている規模を超えていたことを示唆した。
この経験を振り返って同氏は、直面した課題として「備蓄燃料の不足の可能性」に加えて「非常用発電機のメーカー保証の連続稼働時間である72時間を超過してしまう可能性」「燃料に加えて潤滑油の確保も必要になった」「非常用食料も不足する恐れが」といった問題が次々生じたと紹介した。
メーカー保証の連続稼働時間は、超えるとすぐに壊れるというものではないが、超える前にメンテナンスを行うことが保障の条件だという。仮に連続稼働時間が72時間を超えた場合はメーカー保証切れとなってしまい、その後の運用に支障を来たすことになったと思われる。また、潤滑油の備蓄は見落としがちな盲点と言えそうだ。
石狩データセンターで直面した課題
非常用発電設備関連でも貴重なノウハウが得られた形だが、続いて同氏が指摘したのは人的な対応だ。石狩データセンターでも非常時に備えて水や非常食の備蓄は行われていたそうだが、基本的には乾パンなどの文字通りの非常食だったという。これらがあれば「命をつなぎ、救助を待つ」ことには対応可能だが、実際にはデータセンターの運用を継続するために、スタッフは普段以上の業務をこなす必要に迫られており、そうした活動を支えるためには食事や睡眠といった部分についても十分な質が確保されていないと保たないことが明らかになったという。
実際には、スタッフの家族などもデータセンター内に避難し、炊き出しなどに協力するなどの活動で業務を支えたそうだ。スタッフにとっても家族を自宅に残したまま、安否を気遣いながら業務を継続するというのも難しいと考えれば、家族も一緒にデータセンターに避難できた(そうした用途に転用できるスペースが存在していた)ことも都合が良かったし、温かい食事が提供できることで業務を継続できた面もあるだろう。同社ではこうした経験を踏まえて温かい食事が出来るような備蓄を充実させるなど、その後の対策の見直しに経験が生かされているという。
被災経験を踏まえた対策強化の一例として、備蓄品ポリシーも変更されている
一般に被災時の備えとして準備されているのは「救助を待つ間持ちこたえるだけの最低限の備蓄」であり、被災者として救助を待つだけなら何とかなっても、業務を継続するためには心許ない。こうした認識は、実際に震災被害に遭いつつも運用を継続したという経験があって初めて分かることといえ、貴重なノウハウが共有される意味は大きい。日本は世界有数の地震国であり、今後も重要インフラが被災する可能性を想定しておく必要があるだろう。そうした場合に備えてどのような準備をしておくべきか、今回紹介されたさくらインターネットの経験から学べるものは大きいだろう。