本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、富士通 代表取締役社長の時田隆仁氏と、同じく富士通 執行役員専務 兼 CTOのVivek Mahajan氏の発言を紹介する。
「富士通グループは社会のあるべき姿を起点としたビジネスに大きく舵を切る」
(富士通 代表取締役社長の時田隆仁氏)
富士通 代表取締役社長の時田隆仁氏
富士通の時田氏は、同社が先頃オンラインで開催したプライベートイベント「Fujitsu ActivateNow 2021」のオープニングキーノートでスピーチを行った。冒頭の発言はその際、富士通グループの今後の方向性について語ったものである。
「大きく舵を切る」とはどういうことか。時田氏のスピーチのエッセンスを以下に紹介しよう。
「富士通は1935年、通信機器メーカーとして日本に誕生した。テクノロジーで人を幸せにするという信念のもと、創業から86年間、さまざまなテクノロジーを世に出し、社会やお客さまの発展に貢献することに取り組んできた。世界が変わりゆく中、これから富士通が果たしていくべき役割は何かを改めて考え、昨年、パーパスを定め、全ての企業活動をこのパーパス実践のためのものとして今、取り組んでいる」
こう前置きした時田氏は、今回のスピーチの本題に向けて、2015年に国連で採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」への取り組みについて次のように話した。
「私たちをより良い未来に導く指針としてSDGsがある。今、世界中でこの達成への貢献が政策や経営の中核に掲げられている。だが、私たちはSDGsが示す未来に進めているだろうか。かつては夢だったテクノロジーが次々と実用化され、私たちは今、その恩恵を受けながら生活している。一方で、未来を脅かす問題は私たちの予測を遥かに超える形で起きている。この状況を打破し、世界の進む方向を変えていくには、これまでの延長線上の取り組みでは通用しない」
「そのため」と言って、ひときわ語気を強めて「宣言」のごとく発したのが、冒頭の発言である。さらに、大きく舵を切った内容について次のように述べた。
「2030年をターゲットとして、これからの産業の姿について人々の生活を起点に考えた。例えば、決済などの金融サービスは店舗での買い物に加え、オンラインショップや病院での支払いなど、既に生活のさまざまなところに溶け込んでいる。そうした考え方に基づいて、富士通が持つケイパビリティーを洗い出して議論を重ね、クロスインダストリーとテクノロジーの両軸で、今後、重点的に取り組む7分野を定義し、『Fujitsu Uvance』と名付けた新ブランドの事業として注力していくことにした」
Fujitsu Uvanceの内容については発表資料をご覧いただくとして、7分野については図1の通りである。筆者の印象では、この新事業ブランドの発表は目立ったニュースにならなかったようだが、実は富士通の今後の方向性を示す重要なメッセージだ。なぜ、この7分野なのかなど、気になる点もあるが、まずは読者諸氏にも富士通の重要なメッセージを確認していただきたい。
図1:Fujitsu Uvanceを構成する7つの重点注力分野(出典:富士通)