顧客基盤を再構築--月100件の新規案件を見込める体制を構築した印刷会社の地道

阿久津良和

2021-11-17 07:45

 Sansanが11月10日に開催したオンラインイベント「Sansan Innovation Summit 2021」に印刷会社の研文社(東京都新宿区) 営業本部 マーケティング室 室長 川口学氏が「『アプローチ件数10倍』創業から75年間で築いた情報資産を、ダイレクトマーケティングにフル活用」と題した講演に登壇した。川口氏は名刺管理について「運用を円滑に行うために大事なことは社内を巻き込むこと」と語った。

アプローチ対象の母数が圧倒的に不足

 2021年で創業75周年を迎え、デザインやウェブ制作から印刷加工、完成品の物流業務も担う総合印刷会社である研文社は、新規案件を獲得する仕組みが未確立という課題を抱えていた。

 試行回数が足りないのか、人的資源不足なのかと問題点を洗い出した結果、「アプローチ対象母数が圧倒的に不足している」(川口氏)ことが原因だと判明。そのため、同社は保有する名刺データの収集に着手したが、データ化されているのは、ごく一部。大半は従業員の個人管理という旧態依然の状態だった。

研文社 営業本部 マーケティング室 室長 川口学氏
研文社 営業本部 マーケティング室 室長 川口学氏

 ここから同社の「整備された『顧客データベース』の構築」(川口氏)が始まる。Sansanを選定した理由として同社は「弊社社長がSansanのCMをいたく気に入っていた」(川口氏)という。この鶴の一声が追い風となり、同社のSansan導入が決定した。

 それまで同社が管理していた名刺データは1600件にとどまっていたが、導入後は約7万件へと大きく拡大。「従業員全員がすべての名刺を閲覧できる環境が整い、人脈の把握や大幅な利便性向上につながった」(川口氏)

 だが、営業部門の属人的かつ対面営業という姿勢は変わらず、名刺データを営業リストとして活用しているのは一部にとどまってしまう。加えて2020年のコロナ禍で対面営業の制限やリアルイベントの自粛、在宅勤務の拡大が研文社を襲った。

 川口氏は「生き残るために、従来の手法を変化させる必要がある。『必要な情報』を『必要なとき』に『必要とする顧客』へ非対面主体でお届けする」ことを目的に前述した顧客データベースの再構築に取り組んだ。

 具体的には単なるデジタル化から、重複した名刺の削除や対象外業種の除外など対象を精査し、有効データをSansan導入前の10倍となる約1万7000件に圧縮させている。

 さらに営業部門が保有していたメールアプローチ可否などの情報をタグとして付与。作業を担当した「マーケティング部門からは『ここまでやる必要があるのか』などの声も上がったが、全員が理解できるほど手厚く丁寧に取り組む必要があった」(川口氏)と振り返る。現在では年配の役員も自身で名刺をスキャンし、タグを付与しているという。

 顧客データベースの構築が営業部全体の活動であると認識させるため、「KPI(主要評価指標)やKGI(経営目標達成指標)の確認、活動の進捗などを部門全体で共有するミーティングを定期的に開催している」(川口氏)

 その結果、2020年1月時点で約1600件だった名刺データは同年9月に約1万2000件、同年10月に約1万7000件に達した。

 「一人ひとりの(名刺データ)リストを数字に表すことで、活動を継続させるための動機付けとしている。また、メールマーケティングやダイレクトメールの成功事例などを社内共有することで、20年間接触のなかった顧客から商談を獲得できた」(川口氏)

 前述したタグの付与やリマインドメールの作成などを社内ルール化することで、同社は月50~100件の新規案件が見込める体制を構築した。現在、同社は構築した顧客データベースをメールマーケティングに活用している。業種や種別など顧客属性に合わせたメールを配信し、Sansan導入前は多くても月2件だった商談を月平均15件(2020年度)に拡大させた。

 川口氏は「徹底したサポート体制や活動の可視化、成功体験を共有する社内の巻き込み。そして柔軟かつスピーディな施策実行とオンラインとオフラインの併用で相乗効果を図る」ことが重要など主張した。

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