デジタル岡目八目

「DXオファリング」へシフトするNECのSIビジネス--堺副社長に聞く

田中克己

2021-12-23 07:00

 NECがシステムインテグレーション(SI)ビジネスを「DXオファリング」モデルへシフトさせている。人月の工数から脱却し、業務改革をはじめとするデジタル化を支援する付加価値の高いサービス提供型にしていく考えだ。2025年度に売上高3兆5000億円、調整後営業利益3000億円などとする中期経営計画の数値目標の達成は、利益の半分近くを稼ぐSIサービスの在り方に大きく左右されるように思える。同社のSIビジネスをリードする執行役員副社長で最高デジタル責任者(CDO)の堺和宏氏に今後の展開を聞いた。

NEC 執行役員副社長で最高デジタル責任者(CDO)の堺和宏氏
NEC 執行役員副社長で最高デジタル責任者(CDO)の堺和宏氏

--NECは2012年からSIサービスの売り上げや利益を公表しなくなったのはどうしてか。

堺氏(以下同):エンタープライズやパブリックセクターなどアカウント別の組織にしたからだ。だが、事業ポートフォリオを利益構造から考えると、アセットベースで組み立てていかないと、うまく投資ができなくなる。そこで先日(2021年9月15日)の投資家向け情報(IR)で、(製品とSI、サービス、保守からなる)国内IT事業の業績を公表した。責任体制を含めて横軸でも考えている。

--公表した2020年度の国内IT事業の売り上げは1兆3300億円(2021年度見込みは1兆3500億円)、調整後営業利益率は8%(同9%)になる。製品(ハードウェア)とSI、サービス、保守の機種別構成比は明らかにしなかったが、おおよそ製品が約4割、SIサービス(SIとサービス、保守)が約6割(約8000億円)だという。

 IT事業の年平均成長率は2~3%と見ている(2025年度目標は売上高1兆6000億円、営業利益率12.5%)。ただし、IT事業の中で、ハードウェアと工数は減少し、クラウドなどの共通基盤やコンサルティングなどが伸びる。課題は、人数に売り上げが比例する工数ベースの仕事が多いこと。単価はほとんど上がっていないので、システムエンジニア(SE)が稼ぐSIの売り上げは、4000億~5000億円が限度になる。

--「ITの需要は増えるものの、クラウド化が進み、アプリを作らなくてもよくなる」といった内容の講演を聞いた際、SIサービスの在り方に対する問題意識を持ったと伺った。

 ハードウェアやクラウド、保守、SIによる価値提供は今後どうなるのか、2022年中に内容を整理して明確にしていく。そして、売り上げと売上総利益(Gross operating Profit:GP)をシミュレーションし、人材と投資を考える。人口が減少する中で生産性を上げて、売上高と売上総利益を伸ばすためだ。

--2016年にSIサービス全体の担当になった際、まずクラウド化を意図的に進めたという。工数から脱却するため、人工知能(AI)やセキュリティなどデジタル人材育成にも取り組んでいると聞く。

 2020年のIRで、提案型や価値提供型へのシフトを発表し、準備を始めた。一人ひとりのスキルに依存することから投資コストはかかるが、DXオファリングが増加すれば利益も上がっていくと考えた。DXオファリングとはソリューションに似ており、ワークプレイスやオフィス環境などといった共通的なものと、業種別に業務変革やイノベーションなどを支援する製品とSI、サポートをセットで事前に用意したものがある。

 この1年に約40種のメニューをそろえた。実際の中身は、基盤(プラットフォーム)とアプリ(Software as a Service〈SaaS〉など)、デリバリーなどで、コンサルティングから入って顧客と一緒にプロジェクトを進めていくことになる。

--SIビジネスの課題は、人月商売や多重下請構造などにもあると言われている。競合のITベンダーはシステム子会社を本体に吸収するなどして内製化を推進したり、SaaSの活用を積極的に進めたり、パートナーとの関係を見直し始めている。NECのSE数は、NECグループに2万人(本体数千人、NECソリューションイノベータ1万2000人など)、パートナーに2万5000人だという。今後どうするのか。

 パートナーには、基盤やアプリなどの構築で手伝ってもらう。生体認証系などのアセット作りもあるが、人を出す仕事は減っていく。なぜかと言えば、スピードを求められるからだ。以前なら1年半かかっていたプロジェクトが最近3~9カ月と短くなっている。クラウド化が進み、動くモノを作っておくからだ。そうしたDXオファリングなどの戦略をパートナーに説明し、アジャイル開発やAIやクラウドなどの活用、さらにデジタル人材育成などの教育プログラムも用意する。

 顧客も変化している。事業部門(Line of Business:LoB)からの依頼が増えていることだ。LoBは工数に興味がなく、スピードに価値があると見ている。そうしたLoBが予算を持ち、プロジェクトに関与するのが全体の20%程度になり、さらに増え続けている。当社も人月ベースの提案ではなく、提供する価値を買ってくれることを目指している。

--NECのクラウド基盤は弱体化しているのではないか。Amazon Web Services(AWS)など海外クラウドの扱いが増えている。

 SIサービスの担当になった2016年、NECのクラウドは減っていくと思っていたが、そうではなかった。自社クラウドを提供する神奈川だけではなく、神戸や名古屋、千葉・印西のデータセンターへの投資を増やしたり、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)にも対応したりしている。決して緩めているつもりはない。

 AWSなどのパブリッククラウドとはすみ分けをしている。2017年にAWSのプライムパートナーになったが、その頃からものすごく伸びている。基幹システムのクラウド化も始まり、リスト&シフトを一緒に進めている。特に金融が中心で、製造や流通、サービスなどの業界へと広がっている。

--米IBMがSIサービスなどを分社したが、NECはどうか。

 NECはモノ作りに強みのあるメーカー系SIになる。例えば、販売時点情報管理システム(POS)などエッジ系製品はインターネット時代の顧客接点や価値になる。そうした製品とSIをまとめて提供するソリューションベースに舵を切った。

 もちろん自社で全て作る必要はないが、ソリューションとしてまとめることを強みにする。それに会社を分けるつもりはない。アカウント側に揺れたり、製品側に揺れたり、SI側に揺れたりするが、縦横連携(筆者注:エンタープライズなどビジネスユニット別組織と機種別組織のこと)を強化する。だからこそ、DXオファリングを用意した。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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