LinuxカーネルがCで記述されているというのは誰もが知るところだ。ただ、そのCがかなり昔のC、すなわち1989年の規格である「C89」だという事実については知らない人もいるかもしれない。C89は「ANSI X3.159-1989」、あるいは「ANSI C」としても知られている。Linus Torvalds氏は、そろそろC89に別れを告げる時だと判断し、Linuxカーネルの公式な開発言語を2011年規格の「C11」に移行しようとしている。
これは見かけほど大きな変更ではない。C89は現在でもほぼ普遍的にサポートされている。どのようなCコンパイラーでも以前の規格との後方互換性を備えているため、C89で記述されたプログラムのコンパイルや実行は問題にならない。つまり、C11準拠のコンパイラーでも、C89で記述されたレガシーなコードによって問題が引き起こされることはないはずだ。
では、なぜわざわざ移行するのだろうか。今回の変更は、新しい規格で利用可能になった便利な機能を使おうというものではない。
Torvalds氏がこうした考えに至ったきっかけは、カーネルのリンクリストプリミティブに関連する投機的実行の脆弱性を解決するパッチを適用しようとした際に、該当パッチが持つ別の問題が明らかになったことだった。同氏はこの問題を修正するには、「C99」でリストのトラバースマクロに引き渡すイテレーターを、ループ本体の外のスコープで宣言しておかなければならないという点に気付いた。
同氏はLinuxカーネルメーリングリスト(LKML)に「この種の非投機的なバグが発生する理由は、C99スタイルの『ループ内での変数宣言』という選択肢をわれわれが今まで持ち合わせてこなかったためにほかならない。つまり、list_for_each_entry()といったものすべては基本的に常に、最後のHEADエントリーをループ外にリークさせる。というのも、ループ本体内でイテレーター変数を宣言できないためだ」と記している。
その答えは、いよいよC89に別れを告げ、この種の問題が起こり得ないCの新規格に移行するというものだ。つまり「C99規格への移行を検討する時期が来たということだ。これは20年以上も前に策定された規格だが、少なくともブロックレベルでの変数宣言が可能な程度には新しいもの」となっている。