Oracleがクラウドサービス事業の展開において、マルチクラウド戦略に一層注力し始めた。なぜか。戦略が奏功するカギはどこにあるか。
Oracleのマルチクラウド戦略における3つのステップ
Oracleが10月中旬に米国ラスベガスで開催した自社イベント「Oracle CloudWorld 2022」で、マルチクラウド戦略への注力を鮮明に打ち出した。以前からマルチクラウドへの対応には力を入れていたが、同社 創業者で会長 兼 最高技術責任者(CTO)のLarry Ellison(ラリー・エリソン)氏が同イベントでさらなる注力を強調したことで、最重要戦略の一つに位置付けられた格好だ(写真1)。
写真1:「Oracle CloudWorld 2022」で話すOracle創業者で会長 兼 CTOのLarry Ellison氏(出典:日本オラクル)
同イベントで紹介されたマルチクラウド戦略について、日本オラクルが11月10日にオンラインで開いた記者説明会で、同社 常務執行役員クラウド事業統括の竹爪慎治氏が解説した(写真2)。
写真2:「Oracle CloudWorld 2022」の内容について解説する日本オラクル 常務執行役員クラウド事業統括の竹爪慎治氏
竹爪氏はまずOracleがマルチクラウド戦略に注力する背景として、「当社の多くのお客さまである大企業の8割超がマルチクラウドを利用し、その伸び率もこの1年間でおよそ3割という勢いを見せている」との調査結果を示した。これを受け、Ellison氏もマルチクラウド、そしてそれを他のクラウドサービスと実現するために「協調」していくことを前面に打ち出したという。
Ellison氏の自社イベントなどでの外部に向けた発言は、これまで挑発的な表現が目立っていたが(それがOracleらしさでもあったが)、今回は一転して協調姿勢を前面に打ち出していたとか。そうした同氏の姿勢が象徴するように、今回のイベントは外部との協調ムードに溢れていたそうで、それが「Oracleの一大変化」を印象付けたようだ。同社もいよいよ仲間づくりが不可欠な「サービス企業」に変身しつつあるということか。
Oracleにおいて、マルチクラウド戦略の主な対象となるのは、IaaS/PaaSの「Oracle Cloud Infrastructure」(以下、OCI)だ。ここで強調しておきたいのは、OCIには同社がこれまで主力製品としてきた「Oracle Database」がPaaSとして組み込まれていることだ。したがって、クラウドサービスでも同製品を組み込んだOCIが引き続き同社の主力事業となる。
竹爪氏はOracleのマルチクラウド戦略として、「3つのステップで進めている」として次のように説明した。
第1ステップは「他のクラウドとの連携」。この意味は「他のクラウドのデータセンター同士を直結させて、お互いのアカウントやサポートサービスを連携させる」というものだ。
第2ステップは「他のサービスとの連携」。「お互いのサービスをお互いのクラウド環境からシームレスに呼び出して使えるようにする」という意味だ。
第3ステップは「クラウド間の相互連携の向上」。「データ管理においてお互いのサービスの相互連携(インターオペラビリティー)を高めていく」というものだ。
少々分かりづらい表現だが、押さえておきたいのは、第2ステップで「サービスの相互利用」、第3ステップで「データ管理における相互連携」ができるようになるということだ。
こうした3つのステップに対し、Oracleの「現在地」を示したのが、図1である。まず第1ステップとして、2019年に「Microsoft Interconnect」を発表。第2ステップでは、2022年7月に「Oracle Database Services for Azure」、同年9月に「MySQL HeatWave on AWS」、そして「MySQL HeatWave on Azure」を発表した。すなわち、Microsoftの「Microsoft Azure」などとの連携をはじめとして、Amazon Web Services(AWS)のサービスとの連携も進めつつあることを示してみせた。
図1:Oracleのマルチクラウド戦略の「現在地」(出典:日本オラクル)
さらに、竹爪氏によると、今回のイベントでは第3ステップをイメージしたデモも披露したという。その内容は「AWSのデータベース管理サービス『RDS』に対し、OCIの方からエンドポイントを設けてデータを同期しながら、シームレスに連携していく」というイメージのデモだ。連携した時にかかる手間の簡略化や、同一化したユーザビリティーでのサービスの提供に関するものだったとか。ちなみに、この新たなテクノロジーについては「順次、開発を進めている」としている。