デジタル岡目八目

暗礁に乗り上げ、迷走するDX--デジタルシフトウェーブの鈴木社長に解決策を聞く

田中克己

2023-01-31 07:00

 多くの企業がデジタル変革(DX)に取り組みつつも、実は暗礁に乗り上げて迷走するプロジェクトが少なくない。その背景には、メディアがこぞってデジタル活用やDX推進をはやし立てるので経営者が焦りを感じてきたことがある。そこに、伝統的なIT企業やコンサルティング企業らが自社のサービスにDXの冠をつけて提案する。

 DX戦略の策定から推進を支援するデジタルシフトウェーブ(DSW)代表取締役社長の鈴木康弘氏は、「デジタル化とDXはまるで違うものなのに、それでDXを進めていると思っている。DXを正しく理解していない」とし、DXを他人任せにするのではなく、自ら戦略を立てて実行することを説く。そのためには、経営者の意識改革やDX人材の育成などが欠かせないという。

 2023年2月で58歳になった鈴木氏は、おおよそ10年ごとに新しい仕事へチャレンジしてきた。大学卒業後の20代は富士通でシステム企画から開発、運用に携わる。30代はソフトバンクに移り、新規事業の立ち上げを担当、営業なども経験した。40代はセブン&アイ・ホールディングスの最高情報責任者(CIO)や、オンラインとオフラインの顧客接点を統合するオムニチャネルの推進リーダーを務めた。こうして、同氏は「システムを作る」「会社を作る」「事業を作る」というDXに必要な経験とノウハウを積み、2017年3月に50代でDSWを設立。「人を作る(育てる)」コーチング事業を開始した。

デジタルシフトウェーブ(DSW)の鈴木康弘氏
デジタルシフトウェーブ(DSW)の鈴木康弘氏

 確かにDXの成功事例は少ない。理由は幾つかある。まずは、経営者が「DXに力を入れる」と宣言したものの、戦略から実行までを相談する人材がいないこと。そして、DXの推進部署を設置するがノウハウがなく、戦略を立てられないこと。そこで、マーケティング部門などが主導しても販促中心になってしまう。また、IT部門に任せても導入するツールが増えるばかり。頼みの綱は、IT企業やコンサルティング企業になるが、彼ら自身に変革の経験がないと、費用がどんどんと膨れ上がっていくことになる。社外に任せっきりでは社内で盛り上がるわけもなく、そうしている間にDXは停滞、消滅してしまう。このような失敗原因が考えられるという。

 そこで鈴木氏は、まず人と組織の行動を変革させる必要性を説き、同社が提供する「DX戦略支援サービス」と「DX推進支援サービス」、DX関連情報を発信するメディアサービスを通じて、ユーザー自身によるDXの戦略策定から推進体制の構築を支援する。具体的には、経営者の意識を変えるとともに、DX戦略の立案と推進体制の整備から始める。そして、設定したDXのゴールに向けて、業務を改革したり風土を変えたりしていく。こうしたDX推進プロジェクトのリーダーはユーザー企業であり、同社はその推進責任者の横にいてノウハウを伝授する。DX人材の育成も手伝い、IT企業の提案を理解できるように支援する。

 「費用は驚くほど安い」と鈴木氏は話す。顧問という立場となるため、月額30万~50万円程度という。例えば、DXに関する社内勉強会に呼ばれ、そこでは5年後、10年後に目指す姿や資金調達、人事政策などについて経営者らと議論し、DX戦略の立案へと進んでいく。

 大手衛星放送会社系のコンタクトセンターでは、「利益を圧迫しているので、コストダウンを図りたい」といった相談があった。実際に現場を視察すると、最大の課題は離職率が高いことにあった。その原因の1つに「この番組は何時からか」といった問い合わせへの対応があった。そこで、こうした質問はテキスト化するなどの効率化を図った結果、離職率は一気に低下し、採用費用の削減につながった。

 また、ベテランオペレーターを「ティーチングオペレーター」に名称変更するなどの施策も実施し、その力を生かしてコンタクトセンターをコストセンターからプロフィットセンターに変革させた。実際、自動車メーカーからコールセンター業務の受注に成功するなど、「まさにDX」(鈴木氏)の好例となる。

 DSWでは、中堅食品スーパーのネット対応や大手外食チェーンのDX推進なども支援している。

 同社は創業から6年が立ち、従業員数は約15人になった。2024年度から新卒採用を始める計画だ。同時に、コンサルティングサービスとメディアサービス、2020年3月に立ち上げた日本オムニチャネル協会の活動を融合させていく。DX戦略支援などのコンサルティングサービスでは苦悩する経営者らの相談に乗り、メディアサービスではDX関連の情報を広く発信する。

 日本オムニチャネル協会は現在約220社が加盟しており、人材育成の場となるほか、業界や組織の壁を取り払う役割も担う。小売業やIT企業、物流会社などの多業種が参加するので、例えば、米国で展開される「Amazon Go」を視察に行けば、さまざまな視点で店舗づくりについて議論ができる。それが人材育成にも通じる。

 鈴木氏は、「『人を育てる』『未来を変える』のは、他人の力ではできない」と繰り返す。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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