量子技術活用の産業や事業創出の現在--Q-STARや東北大学らが懇談 - (page 2)

大河原克行

2023-05-16 07:00

 量子ICTフォーラム 総務担当理事の飯塚久夫氏は、「研究機関、民間企業、政府をつなぐハブとして活動し、法人会員74社と研究者などの個人会員81人が参加している。『量子鍵配送技術推進委員会』で高性能装置の実用化や国際標準化をリードし、『量子計測・センシング技術推進委員会』で光格子時計の発明や先進的ダイアモンドセンサーなどで世界をリードする研究者が参加している。『量子コンピュータ技術推進委員会』では各種方式に関わる研究者が参加し、若手研究者の育成にも取り組んでいる」と活動状況を報告した。

理化学研究所 量子コンピュータ研究センターの位置付け
理化学研究所 量子コンピュータ研究センターの位置付け

 理化学研究所 量子コンピュータ研究センター 副センター長の萬伸一氏は、「政府が国内10カ所に量子技術イノベーション拠点(QIH)を設置し、理化学研究所はその中核拠点の役割を担っている。それぞれの拠点で量子通信、量子コンピューター、センシングなどに取り組み、横串の活動として『量子イノベーション拠点推進会議』を設置し、国際連携や知財・標準化、産官学連携、人材育成にも取り組んでいる」と、QIHの取り組みを紹介した。

量子技術イノベーション会議座長の伊藤公平氏
量子技術イノベーション会議座長の伊藤公平氏

 さらに、量子技術イノベーション会議座長の伊藤公平氏(慶應義塾長)が、「量子未来産業創出戦略」について説明。政府が2020年1月に「量子技術イノベーション戦略」を発表し、2022年4月に「量子未来社会ビジョン」を打ち出した。伊藤氏は、「この2つが車の両輪として走り出している。量子未来社会ビジョンでは2030年までに量子技術の利用者を国内1000万人、量子技術による生産額で50兆円規模を目指すほか、未来市場を切り開く量子ユニコーンベンチャー企業を創出することをうたった。それに向けた量子技術の出口が『量子未来産業創出戦略』になる」と位置づけ、「戦略の策定では、Q-STARと緊密な連携を行い、産業界の意見が反映させている」(伊藤氏)という。

 量子未来産業創出戦略では、多様な産業の量子分野への参画、協働、共創、グローバル連携、産学官連携を推進する「Collaboration」、産業界に開かれた量子技術の利用環境の実現を目指す「Accessibility」、積極的なスタートアップ企業や新事業の創出を支援する「Incubation」――3つの視点から、量子技術の実用化、産業化を推進する。

 また、量子技術の産業化を取り巻く5つの課題として、「量子活用の効果的なユースケースが少ない」「量子技術に対するハードルが高い」「将来の技術、市場が不透明で事業リスクが高い」「スタートアップ企業や新事業の創出、成長の環境が不十分」「産業人材が不足」――の5点を挙げ、それらに向けた基本的な対応方針を掲げた。

量子未来産業創出戦略
量子未来産業創出戦略
産業化の方向性
産業化の方向性
産業化、ビジネス化の課題
産業化、ビジネス化の課題

 伊藤氏は、「経営者視点で魅力のあるユースケース作りを支援したり、量子技術活用による効果や性能指標を設定したりといった取り組みのほか、量子コンピューターの利用環境の整備、複数の企業がオープンイノベーションにより共有できる設備の整備、協調領域での複数社による共創、産業界向けおよび若年層向けの人材教育プログラムの整備などに取り組む」と述べた。

 量子コンピューターでのソフトウェアの利用環境整備や、国産量子コンピューターの産学官による幅広い活用を推進する。量子セキュリティおよびネットワーク、量子計測やセンシング、量子マテリアルでも各種施策を展開することになるという。

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