Q-STAR 代表理事の島田太郎氏
一方で、Q-STARをはじめ量子技術関連団体の活動についても説明した。Q-STAR 代表理事の島田太郎氏(東芝 代表執行役社長 CEO)は、「ビジネス側がお金を払っても良いと思える技術を提示しなければ、技術開発の方向性を誤る。ビジネスの匂いがしないと続かない。Q-STARは約50件のユースケースを作り、16件を厳選してロードマップ化し、これを2023年度から実際に活用していく」と述べた。
Q-STARに75社が参加しているが、そのうちユーザー企業が44社を占めるという。島田氏は、「ユーザー企業が多い特徴を生かし、ユースケース中心にそれらを実現する方法を模索する。量子技術を意識せずに使える社会の構築や、ビジネス機会の創出、人材育成、産官学連携の促進を目指す」とした。
Q-STARの拡大
Q-STARでは、量子コンピューターと古典コンピューターのハイブリッド環境による早期実装、ソフトウェアプラットフォーム構築、産業技術総合研究所の量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル拠点との連携、量子暗号通信におけるオープンテストベッド「Tokyo QKD Network」の活用、量子マテリアルやデバイス、センサーの実用に向けた公的な実験設備および検証設備の立ち上げ、ユースケース開発手法「QRAMI」の普及と標準化への取り組みを進める。
産総研との取り組み
さらに「クオンタムシティ構想」を打ち出しており、島田氏は、量子技術を活用した街作りにも言及。「モビリティーや金融などの従来の業界区分での発想を乗り越えたところに、量子技術が生きる。クオンタムシティ構想はそのための実験であり、具体的な成果が見えることを期待している」と語った。
クオンタムシティ構想
島田氏は、米国の「The Quantum Economic Development Consortium」(QED-C)、欧州の「European Quantum Industry Consortium」(QuIC)、カナダの「Quantum Industry Canada」(QIC)との国際連携も強調し、「4団体によりサプライチェーンマッピングを作成し、グローバルで量子産業を捉え潜在的リスクを可視化し、産業全体で安心して量子技術を推進できる」と述べた。
海外団体との連携
QED-C 事務局長のCelia Merzbacher氏は、「QED-Cに230人が参加し、米省庁との連携も強い。また米国外の19カ国にも会員がおり日本から5社が参加している。量子コンピューターのビジネスをしている企業は、継続的な市場成長を予測しているが、量子コンピューターの経験者人材不足が課題だ。ギャップを特定し、次の段階に何が必要かを考えたい」などとコメントした。
QuIC 事務局長のThierry Botter氏は、「QuICには欧州全体から173社が参加し、産業駆動型組織として量子技術をいち早く活用すべくデベロッパーとユーザーの橋渡し役を担っている。量子コンピューターや量子通信、量子計測のほか、イネーブルテクノロジーも対象にワークグループで持続可能な量子産業の創出を目指した活動に取り組んでいる。今後は量子技術における標準化が重要な課題で、グローバル連携を強化する必要がある」と提起した。
QIC 事務局長のScott Totzke氏は、「カナダ政府は国家量子戦略を策定し、3億6000万ドルを投資している。その一環でQICが設立され、45社が参加している。商用化に向けた取り組みでカナダの量子関連企業の繁栄につなげる。だが、商用化にはまだ課題があり、標準化や産業育成に向け、業界団体やグローバル企業が国際連携していかなくてはならない」と述べた。
シンポジウムのために来日したQED-C 事務局長のCelia Merzbacher氏、QuIC 事務局長のThierry Botter氏、QIC 事務局長のScott Totzke氏(左から)