世界がクラウドへの移行を進めている中、エンジニアや、人工知能(AI)のスペシャリスト、さまざまなものの接続やセキュリティ、稼働を維持できる運用系の人々に対する需要は高まるばかりだ。その一方で、クラウドの購入から設定、そしてデータのアップロードに至る全てを担当する「ジェネラリスト」の数や、ジェネラリストに対する要求は減少しているとはいえ、組織には依然として全体像を見据える力が必要だ。
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これは、Deloitte Consultingの最高クラウド戦略責任者であり、最近出版された「An Insider's Guide to Cloud Computing」(クラウドコンピューティング事情通ガイド)の著者でもあるDavid Linthicum氏の言葉だ。同氏は数多くの企業でのコンサルティング経験を有しており、さまざまな書籍や記事を執筆してきたため、クラウド全般に関する究極の事情通と言ってもよいだろう。
ITは昔からさまざまな専門性を要する広範な分野だった。そしてそれは今や、クラウドコンピューティングの世界でも同様となっている。Linthicum氏は「数年前であれば、どこかの有名クラウドプロバイダーによって認定されたクラウド資格があれば『クラウドの仕事』に就くことができた」と述べ、「しかし最近では、いずれかのパブリッククラウドブランドに特化したセキュリティエンジニアやデベロッパー、アーキテクトといった、専門技術に関心が向けられるようになっている。その結果、狭い範囲に特化した専門スキルに焦点を当てるか、広範に全体を見渡せるジェネラルスキルに焦点を当てるかという話になってくる」と続けた。
ジェネラリストの価値は上昇傾向にある。同氏は「2010年において、クラウドコンピューティングのスペシャリストや経験豊富なコンサルタントには時給にして35ドル(約4800円)から45ドル(約6200円)、あるいは年俸でおよそ8万ドル(約1100万円)が支払われていた。2023年におけるクラウドコンピューティングのジェネラリストには多くの場合、時給にして少なくとも75ドル(約1万円)、あるいは年俸でおよそ14万ドル(約1900万円)が支払われている」と述べた。
Linthicum氏によると、ここで重要なのは、クラウドの専門的スキルを有している場合、さらに高い報酬が得られる点にあるという。同氏は「スペシャリストであり、クラウドにおけるデータアナリティクスやAI、機械学習(ML)といった特定技術を専門にしている場合や、クラウドコンピューティングのアーキテクトである場合、給与や時給は跳ね上がる。特定の認定資格を有するクラウド技術のスペシャリストであれば、時給にして200ドル(約2万7000円)を超えることも珍しくなく、多い場合には年俸で27万5000ドル(約3800万円)を超えることもある」と述べた。
優れたクラウドアーキテクトをはじめとするジェネラリストに対する需要は依然として高いが、その一方で、クラウドはますます高度化している。クラウドは複雑化した企業の要件を満たすために不可欠な存在になっており、特定のタイプの個人に頼るのは非現実的になった。Linthicum氏は、問題は、専門的なクラウドのスキルが非常に高い評価を受けていることだと指摘する。「クラウドアーキテクチャーに関して包括的な問題に目を向けられる人材が少ない場合、このことが問題を引き起こす可能性がある」と同氏は言う。
同氏は、今後5年から10年で、AIOpsや可観測性、FinOpsなどのクラウド運用スキルの需要が大幅に増加すると予想している。AIOpsとは、テクノロジー環境の監視と改善にAIを利用する運用手法のことだ。またFinOps(Financial Operations)は、最近新しく登場してきた、クラウド支出の管理と自動化に関する業務のことを指す。
クラウド運用スキルに需要があるのは、「類似する、あるいは関連する多数の運用タスクを単一の技術スタック内で組み合わせる」というニーズや、「パフォーマンスの管理や、バックアップ、リカバリー、信頼性の確保といった、運用業務の内容が重なり合う部分に対応する」というニーズがあるためだと同氏は言う。
また同氏は、セキュリティは常に重要な課題ではあるが、「少しは需要が増えるだろうが、多くの人が考えているほどではないだろう」と付け加えた。これは、「開発の自動化によって開発やデプロイメントに関するスキルのニーズが減り、インフラの自動化によってインフラに関するスキルのニーズが減る」からだという。
クラウドの専門性が重視される時代になったことを認めた上で、Linthicum氏は警戒の言葉を発した。同氏は、企業は今後もクラウドサービスの範囲や文脈について判断できるリーダーを必要とし、それにはジェネラリストが必要だと主張した。
「クラウドプロバイダーが提供している認定資格は、狭い範囲のスキルしか扱っておらず、企業は、生き残るためにはこれらの特定のスキルセットが必要だと思ってしまいがちだ」と同氏は言う。「企業が、クラウドのジェネラリストのスキルも必要であることに気付くまでには、しばらく時間がかかるだろう」
専門化が進んだことによる意図せざる結果として、IT部門が、クラウドか非クラウドかを問わず、あらゆるソリューションについて幅広い知識を持つエキスパートでなければ捉えられない大局的な問題を見逃してしまうことが増えているとLinthicum氏は言う。
「そのため、これからは、ITスタッフがクラウド技術の全体像をより戦略的な観点から把握できる能力を持っていない状況が増えるだろう。全体像を把握する能力の欠如は、多くの有効なソリューションを検討できないといった、いくつかのマイナスな影響を及ぼす。これは、組織の中に、そうしたソリューションの仕組みや、現在のやり方ではなくそれらのソリューションを利用すべきである理由を理解している人がいないために起こる」と同氏は述べている。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。