ボリュームディスカウントは、スーパーやネット通販などで見られる、まとめ買いすると1つ当たりの単価を安くしてもらえることです。このボリュームディスカウントは、法人PCの調達において、PCを安く調達するための“鉄板”だったのですが、最近ボリュームディスカウント目的のPCの大量一括導入が運用の足かせになっているような気がします。今回は、Device as a Serviceの理念とも相いれないPCの大量一括導入の問題点を解説します。
企業にとって、PCを調達するに当たり最も気になるポイントの1つが価格です。単価十数万円のPCでも、1000人もいる企業で1人1台を割り当てるとなると1億円以上かかることになります。なかなかの負担です。そのため、企業はなるべく安くPCを調達するために、ボリュームディスカウントでなるべく単価を抑えようとします。
しかし、ボリュームディスカウントをメーカーやベンダーに要求するには、当然ながらまとまった購入台数が必要です。そのためPCの導入は、大きな企業では必要になったタイミングで適宜導入するのではなく、大量に一括導入するのが一般的な形態になっています。
この大量一括導入は、PCの展開手法がクローニングである場合に、特に有効に機能しました。クローニングとは、その企業向けに標準セットアップされたPC(マスターPC)のHDDやSSDを丸ごと単純にコピーすることで、その企業向けのPCを大量生産する手法です。従来のPCの大量展開の一般的な手法でした。このクローニングは、原則として同じ機種のPCにしか、コピーを展開できません。PCのOSには、その機種向けのドライバーなど機種特有の情報を多く含むため、同じ機種にしかコピーできないのです(さまざまな機種に展開できるようにする技術もありますが、機種特有の問題にぶつかることも多く、一般的には利用されていません)。
大量一括導入で同じ機種を調達することは、価格の面でも展開の面でも非常に効率的です。しかも利用者をサポートするIT部門として、電源の位置が違ったり、接続端子の数が異なったりする複数の機種をサポートするよりも、同じ機種をサポートする方が効率的でもあります。こうして、企業におけるPCの導入は、大量一括導入が長らく主流となっていました。大量一括導入による同一機種での調達がコスト的にも、運用効率的にも、最も良いとされてきました。しかし、それは本当でしょうか。
実のところ大量一括導入により企業内の機種を同一化し続けることには、無理があります。PCは、メーカーにもよりますが、半年から1年ほどで新しい機種が出ます。クローニングでは、その都度マスターPCを作り、コピーを作り直す必要があります。マスターPCは、作って終わりではなく、作った後に業務システムでの動作が問題ないか検証が必要です。作り直しはそれなりに手間暇がかかります。「Windows 10」ではアップデートが早くなり、過去の機種のマスターPCも作り直しが必要になりました。昨今は、この負担に多くのIT管理者が悲鳴を上げています。実際に、企業内のPCを同じ機種に統一できている企業はほとんどありません。
また、このようなマスターPCの作り直しを避けたいがため、サポートの効率化のために、例えば4年使うと決めた分、故障を見越した余剰のPCを抱えることで、この問題をなるべく100%ではないにしても回避する努力をしている企業もあります。しかし、そうすると、4年間も同じ機種を使い続けることになります。これが、本当に効率が良いかは、実は多くの企業で検証されていません。余剰分を抱えることにより、むしろ余計なコストになっている可能性もあります。