米OpenAIが開発した「ChatGPT」のようなチャット形式のジェネレーティブAI(以下、生成AI)を、日本企業も一般向けサービスとして出してみてはどうか。今回はこんな大胆な提案を申し上げたい。
甘く見ないほうがいいChatGPTの勢い
ChatGPTをはじめとした生成AIが一大ブームを巻き起こしている。生成AIで“肝”となるのは「大規模言語モデル(LLM)」というAI技術であることも認識が広がってきた。最近ではこのLLMを業務システムと連携させ、業務システムの中で生成AIを使用するという動きが活発になっている。この動きは、「生成AIはLLMをどう活用するかであって、チャットはその一部にすぎない」ことを示しているように見て取れる。
理屈から言えば、その通りだろう。だが、生成AIブームを巻き起こしてきたChatGPTの勢いを甘く見ないほうがいいのではないか。書店のビジネス書コーナーを見ると、関連本がこんなに出ているのかと驚かされるほどだ。
さらに、筆者が最も注目しているのは、OpenAIのLLMを利用したMicrosoftの「Azure OpenAI Service」が業務システムと連携させる生成AIクラウドサービスとして急速に広がっていることだ。明確なシェアを示した調査結果は見当たらないが、取材を通じての筆者の感覚と関連する調査結果を合わせて推察すると、現時点では業務システム連携案件の7割ほどがOpenAIおよびMicrosoftのサービスだと見られる。なぜ、そんなに独走状態なのか。一気に広がったChatGPTの利用がきっかけになっているのは容易に想像がつく。
そんなことを考えていたところへ、インターネットイニシアティブ(IIJ)が8月18日、メディア向けにAI勉強会を開いたので参加してみた。そこで今回のテーマに関係する話を聞くことができたので、以下に勉強会での図を引用しながら説明しよう。レクチャーしてくれたのは、同社 広報部 副部長 兼 テクノロジーユニット シニアエンジニアの堂前清隆氏である。
まず、図1は、AI技術の中で、生成AI、LLM、ChatGPTの位置付けを表したものである。これを見ると、生成AIはディープランニング(深層学習)の一種で、LLMをベースとして文章や画像など新しいものを作り出すことができるAIのことだ。ChatGPTはその中で、チャット形式で人間と会話できるようにしたサービスということになる。
図1:AI技術の概要(出典:IIJ「AI勉強会」説明資料)
つまり、「AI全体から言うと、ChatGPTをはじめとした生成AIはごく一部の領域にすぎない」と、堂前氏は説明した。
LLMについては、日本でも研究機関やIT系企業が独自技術の開発に注力している。例えば、情報通信研究機構(NICT)が7月4日に「日本語のウェブデータのみで学習した400億パラメーターのLLMを開発」したと発表。また、NECが7月6日に「日本市場向け生成AIを開発・提供開始」と銘打って記者会見を開き、「130億パラメーターで世界トップクラスの日本語性能を有する軽量なLLMを開発」したと発表した。
もう1つ、堂前氏が興味深い図を示してくれたので紹介しておきたい。業務システムとAIの連携について描かれた図2が、それだ。
図2:業務システムとAIの在りようの変化(出典:IIJ「AI勉強会」説明資料)
堂前氏は図2を示しながら、「これまでLLMは業務システムとは関係なく、チャットを通じて人間と会話できることが注目されてきた。だが、これからLLMは人間と直接ではなく、まず業務システムと連携していく形になる。そして、従来プログラミング言語で記述されていたビジネスロジックの一部が、LLMを使用する処理に置き換えられることも考えられる」と説明した。ここで言う「これまで」が左の図で、「これから」が右の図で表したものである。
上記の業務システム連携の話と照らし合わせると、今、生成AIの活用に取り組む企業の大半は図2において右の図の仕組みを目指しているが、それがOpenAIおよびMicrosoftのサービスである場合、当該企業がそのサービスを採用したのはChatGPTを使ってみたことがきっかけだろう。その意味で、ChatGPTのようなチャット形式の生成AIは、業務システムとの連携においてもフロントエンドとして機能するとともに、そのベースとなるLLMを広めていく役割を担うのではないか。