経営者は生成AIをどう上手に活用していけばよいのか。この疑問に対する回答として、星野リゾート代表による興味深い説明を聞くことができたので、今回はその内容を紹介したい。
「ラッキーだった観光産業の3つの変化」とは
「私はスキーが大好きで、この1年で80回ほど楽しんだが、できれば年間100回行きたいと思っている」
星野リゾート代表の星野佳路氏
星野リゾート代表の星野佳路氏は、Google Cloud日本法人が8月1~2日に開催した年次イベント「Google Cloud Next Tokyo ’24」の初日の基調講演で、Googleが提供する生成AI「Gemini」のユーザーとして、その活用法について説明した。上記のコメントは、そのスピーチの冒頭で「自己紹介」として述べた一言である(写真1)。
会社の紹介としては、「当社は、リゾート、観光、温泉旅館、ホテルといった事業に携わっているが、同業他社がそれらの開発、所有、運営という3つのタスクを全て自社で賄っているのに対し、当社は当初から運営だけに特化してきた。これまで30年余り経営に携わってきた私にとっても非常に重要な意思決定だったが、これが奏功してその後、成長を続けることができ、今では6つのサブブランドを展開し、国内外で72施設を運営している」と説明した(図1)。
図1:星野リゾートの運営施設数と取扱高の推移(出典:「Google Cloud Next Tokyo ’24」の基調講演)
その上で、星野氏は「1991年に父から1軒の温泉旅館を引き継いで、運営に特化する戦略を展開して今まで伸びてきたが、その成長プロセスにおいて非常にラッキーだったことが3つある。その3つとは、これまで30年ほどの観光産業の変化そのもので、私はそれらの動きに必死についていった」と話し、その3つの動きについて以下のように説明した。
1つ目は、旅行形態が「団体の周遊型」から「個人の滞在型」に変化していったことだ(図2)。
図2:旅行形態の変化(出典:「Google Cloud Next Tokyo ’24」の基調講演)
「バブル経済の崩壊、個人旅行市場の成長など、さまざまな変化の要素があったと思うが、この動きにしっかりと対応していったことが、小さな存在だった当社が古くからある産業の中で存在感を発揮できるようになった大きな要因だと考えている」(星野氏)
2つ目は、インバウンド(訪日外国人旅行)の増加だ(図3)。
図3:日本の旅行市場の内訳(出典:「Google Cloud Next Tokyo ’24」の基調講演)
「2023年の日本の旅行市場において、国内の21.9兆円に対し、インバウンドは5.3兆円とまだ小さい市場だが、今後、国内は人口減少に伴って右肩下がりになる可能性が高い。従って、政府もインバウンドの呼び込みに注力しているが、この動きに対しても当社はいち早く対応し、インバウンド需要を取り込んで存在感を高めることができていると自負している」(同)
3つ目は、スマートフォン上で全ての情報のやりとりが行えるようになってきたことだ(図4)。
図4:スマートフォン上での情報のやりとりが活発に(出典:「Google Cloud Next Tokyo ’24」の基調講演)
「1990年代後半からさまざまな情報がオンラインでやりとりされるようになった。そうしたデジタル技術の進展と観光産業の変化が重なり合う形で動き出した。私はこの重なり合う動きへの対応に注力し、いち早くオンライン事業を展開することができた。それが奏功して、現在では当社の施設への予約数のうち7割がお客さまから当社のサイトへ直接お申し込みいただいたダイレクトブッキングとなっている。これは当社にとって非常に強力なアドバンテージとなっている」(同)