「Linux」カーネル開発者であり、LWN.netの編集責任者を務めているJonathan Corbet氏は「Linux Foundation Member Summit」の場で、Linuxカーネルのメンテナーが抱えている問題と、そうした状況が手に余るようになってきている理由について説明した。
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事実、Linuxコードのメンテナーの多くがバーンアウト(燃え尽き症候群)に陥っている。なぜだろうか。その理由は数多くある。しかしまず、Linuxカーネルのメンテナーが実際に行っている作業を理解する必要がある。
Linuxコードのメンテナーというのは、何千人もの開発者からのマージ依頼を受け取り、コード中にエラーがなく、リグレッション(退行)がないことを確認し、ワークツリーの上流や下流にある他のメンテナーによるパッチとの連携を調整し、最後にマージ対象パッチをメインラインに取り込むという作業を担う人々だ。また、バックポートも実行する。メンテナーはこのように多くの作業を担当しているが、ここに挙げたのはコードに関する「楽しい」部分だけだ。
メンテナーはさらに、異なる意見を持つ開発者間の調停役を務めたり、ベンダーやユーザーとやり取りをする必要もある。後者は、ハードウェア企業との話し合い、そしてそうした企業のドライバーをオープンソース化するための調整作業、ドライバー開発方法に関する開発者支援、ノートPCに搭載されているタッチパッドを機能させるためのユーザーサポート(ドライバー開発時にハードウェア企業が協力してくれなかった場合などに起こり得る)に至るまで多岐にわたっている。
これらの作業を抱えると、結果としてどうなってしまうのだろうか。XFSファイルシステムの元メンテナーであるDarrick Wong氏はメンテナーの職を辞す際、メーリングリストに「私は上級開発者やレビュアー、テスター、トリアージ担当者(お世辞にもうまくこなせたとは言えないが)、リリースマネージャー、そして(時々)マネージャーとの連絡窓口といった役割をさばこうとして何年も前にバーンアウトに陥った。(中略)もう少し長く持ちこたえられたら、長期にわたる開発に向けた集中力を維持でき、ユーザーのエクスペリエンスを高められるだろうと考えていた。しかし私は間違っていた」と記している。
Wong氏は以下のように付け加えている。
小規模企業や非営利団体、地方自治体に勤務している私の友人の多くも、働き過ぎや、恐れや怒りの荒波にもてあそばれているという同様の不満を訴えている一方で、私がここで(メンテナーとして)体験しているような状況の理解や把握に苦心している。友人たちは、自らの組織において成果が伴わない直接の原因は、リソース不足だと考えているため、われわれの相手にしている企業が数千億ドルもの売上高を達成しているにもかかわらず、私や私の同僚たちが同じ問題を抱えていることを理解できないでいる。
これについて詳細を語る前に、メンテナーのバーンアウトという問題は、The Linux Foundationがメンテナーに報酬を支払っていないために発生しているわけではないという点を強調しておきたい。The Linux Foundationが抱えているメンテナーはLinus Torvalds氏とGreg Kroah-Hartman氏、Shuah Khan氏の3人だけだ。他にはいない。