東京学芸大と内田洋行が連携--未来型教室で得た教育ITの知見を全国へ

大場みのり (編集部)

2024-02-14 12:06

 東京学芸大学と内田洋行は2月13日、「包括的事業連携協定」を締結し、学校教育における先進的な指導方法やITを活用した学習空間を協議するとともに、国内外の教育/行政機関と連携すると発表した。同日開催の締結式では、両者が2022年に構築した同大学附属竹早小学校の教室「SUGOI部屋」においてデモンストレーションを実施した(写真1)。

写真1:東京学芸大学附属竹早小学校におけるSUGOI部屋での授業風景(提供:東京学芸大学)
写真1:東京学芸大学附属竹早小学校におけるSUGOI部屋での授業風景(提供:東京学芸大学)

 東京学芸大学は創設150年の教員養成学校で、全12の附属学校園を擁する。同大学は2022年、東日本で唯一「教員養成フラッグシップ大学」に指定され、教員養成の在り方を変革する「けん引役」を担っている。

 内田洋行は1946年に全国の学校へ科学教材の提供を開始し、「GIGAスクール構想」では、全国約133万台に上る端末の導入支援やネットワーク環境の構築など、教育IT事業を幅広く展開している。1998年に設立された「内田洋行総合研究所」では、文部科学省や総務省などの受託事業や大学との共同研究を通した教育現場の課題解決に取り組んでいる。

 SUGOI部屋の「SUGOI」には、「Smart:洗練された、Unlimited:制約を受けない、Growing:成長、Open Innovation:異分野である産学が持つ技術やノウハウを組み合わせた革新的な取り組み」といった意味を込めている。同教室は、GIGAスクール構想に伴う1人1台端末の活用を前提とし、壁一面のスクリーンを活用して遠隔授業や協働学習の実施を促進する。

 東京学芸大学と内田洋行の連携は、2020年に発足した「未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト」から始まった。同プロジェクトでは、産学官連携でデジタルを活用した授業や学校運営に取り組んでいる。参加メンバーには、両者のほか、竹早地区における東京学芸大学附属学校の現場教員、NEC、コクヨ、博報堂、岡山県津山市、岩手県山田町、その他の教育委員会が名を連ねる。

 SUGOI部屋は同プロジェクトの一環として2022年に構築され、竹早地区の教員が授業への活用を重ねてきた。今回の包括的事業連携協定では、実践で得られた教育現場におけるIT活用の知見を全国の公教育に広げていく。同教室を試験場と位置付け、「国立大学の附属校だからできる」という状況や認識を変えていくという。

 SUGOI部屋のデモンストレーションでは、東京学芸大学附属竹早小学校の幸阪創平教諭が壁一面のスクリーンを活用した授業を紹介した。現在1年生を担任している幸阪教諭は、雑草の探究学習において竹早地区の衛星画像を「Google Earth」で表示し、行ってみたい場所を児童に問いかけている(写真2)。この画像を基に同教諭と児童たちはまず、近隣の「小石川植物園」や「礫川公園」を訪れたという。また、発見した雑草の種類を書いた紙をスクリーンに貼り付けるなど、デジタルとリアルを融合した学習を行っている。

写真2:竹早地区の衛星画像を投影した様子。「東京ドーム」や日本庭園「小石川後楽園」を一望できる
写真2:竹早地区の衛星画像を投影した様子。「東京ドーム」や日本庭園「小石川後楽園」を一望できる

 そのほか、入院中の児童とほかの児童をオンラインでつないで全員参加の授業を実現したり、グループごとにコマ撮りで映画を制作し、スクリーンに投影された映像を見て差し込む音楽や声を議論したりしている。教員はスクリーンに映すコンテンツの選択や画面の分割を自身のタブレット上で柔軟に行える。

東京学芸大学附属竹早小学校の幸阪創平教諭
東京学芸大学附属竹早小学校の幸阪創平教諭

 スクリーンが壁一面にあることで感じるメリットについて、幸阪教諭は「1人1台端末の配布以降、手元に端末があることで児童の目線が下に向くことが多くなったと感じていた。スクリーンにより、皆で1つのものを見ることへの関心や意欲が高まっている」と述べた。

 東京学芸大学附属竹早小学校では、1年生はタブレット、2年生以降はノート型PCを利用している。従来の紙の教科書も使用する一方、協働学習などの場面ではPC端末を用いるという。SUGOI部屋は教科を問わず、協働学習を行う際に活用している。

 同教室の構築に当たり内田洋行は、複数のハード/ソフトウェアを提供した。同社が提供するハードウェアにはワイヤレスで児童の端末画面を投影するシステム「wivia 5」とマイクスピーカー「Nureva HDL300」、ソフトウェアには希望する大きさ/配置でコンテンツをスクリーンに表示できる「Realsize Presenter」、複数のオーディオビジュアル(AV)機器をスマートフォンやタブレッド上で設定できるAV機器制御システム「codemari」、児童の端末画面を一覧できるクラウド版授業支援ツール「RealCAST」がある。

 そのほか、フレームで教室を仕切れる「Smart Infill Learning Package」や、ワークテーブル「commune CM705072」も提供。同テーブルは、けがせず安全に折りたためる天板や脚部分のキャスターで手軽に動かすことができ、グループワークやダンスなど多様な授業の実施を可能にする。また、タブレットや教科書、文房具を置いても窮屈にならないサイズとなっており、1人1台端末での授業に適している。

 東京学芸大学 学長の國分充氏は、内田洋行について「GIGAスクール構想において、全国の自治体に140万台近くのPC端末を提供し、ITシステムの構築やネットワークの個別設計など、教育現場での運用・支援において豊富な実績を有している。これらの経験と技術は、教育の質をさらに向上させる上で重要な力になる」と評した。

 その上で「今回の包括的事業連携協定の締結で行われる取り組みは、先の読めない『VUCA』(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)と呼ばれる時代を生きる子どもたち一人一人の力を育むとともに、その教育を担う教員の在り方を切り開くための重要な一歩になる」と協定の意義を語った。

 内田洋行 社長の大久保昇氏は「現在、1人1台端末が全国レベルで実現した国は、G7加盟国では日本が唯一である。『NEXT GIGA』に向けて、効果/効率的な学習環境の検討や一般的な学習環境における課題の抽出などに加え、現在いろいろな形で問われている『教員の働き方改革』の観点から職員室の環境の在り方も検討したい。これまでは日本が海外の取り組みを吸収していたが、今後はこのような整った環境において日本が世界に向けて自国の教育の良さを発信する段階に入るのではないか」と自信を見せた。

内田洋行 社長の大久保昇氏(左)、東京学芸大学 学長の國分充氏
内田洋行 社長の大久保昇氏(左)、東京学芸大学 学長の國分充氏

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