どう見ても時代はインターネットから人工知能(AI)に移り変わろうしているように思える。インターネットが私たちの消費、販売、娯楽の在り方を変容させる新世界をもたらしたとすれば、AIは集団としての人間の活動に、また別の大きな変化をもたらそうとしている。
専門家は、AIによる計算は極めて高速で、生産性やイノベーションをかつてないほど大幅に増幅すると主張している。
AIは驚くべき速さでがんの腫瘍を発見したり、病気を引き起こす遺伝暗号を解明したり、新薬を設計したり、二酸化炭素を排出しないエネルギー源を見つけ出したり、雑用をなくしてくれたりするなどとと言われており、他にもさまざまな未知の可能性があると見られている。
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ただしそこには、それほど小さいとは言えない問題が幾つかある。
その1つ目は、伝説的な人物であるIntelの共同創業者、Gordon Moore氏が唱えたムーアの法則(チップの集積度が18カ月ごとにおよそ2倍になるという法則)が、近い将来壁にぶつかると予想されていることだ(既に、チップを今以上に縮小することはますます難しくなっている)。
Klaus Æ. Mogensen氏は、未来について考える雑誌「Farsight」の記事で「プロセッサーの性能は、1986年から2001年までの15年間は年平均52%向上したが、2018年には伸びがわずか年間3.5%にまで鈍化した」と述べている。
2つ目の問題はそれ以上に深刻かもしれない。半導体のチップを使用して膨大な量の実世界のデータセット(ビッグデータ)を処理する人工ニューラルネットワーク(ANN)は、電力と水を極めて貪欲に消費する。
現在のハードウェアでニューラルネットワークをトレーニングすると膨大な熱が発生するため、同水準の強力な冷却が必要になるが、気候問題が深刻化していることを考えれば、これはあまり冷静ではいられない話だ。
最近の試算によれば、わずか3年後には、AIモデルとそのチップがオランダと同じだけの電力を消費するようになる見込みだという。
問題はそれだけではない。データの保管場所とプロセッサーが物理的に離れていることから、いずれはネットワークの処理速度が限界に達する。この問題は、「フォンノイマンボトルネック問題」と呼ばれている。
つまりAIは、ハードウェアの劇的な変革を必要としているわけだ。しかし幸い、ある研究者のグループがそのためのアイデアを思いついた。
脳率的な解決策
それは、チップ製造やスーパーコンピューターではなく、あらゆる生物種の中で最も強力な器官、つまり人間の脳を利用するという解決策だ。