DXの重要性は多くの企業で認識され、さまざまな取り組みが展開されていますが、組織や人に起因する問題で推進が停滞する例が少なくありません。一方、昨今「人的資本経営」への注目が高まっていますが、DXと人的資本経営は支え合い、互いの実現を促進する相互補完的な関係にあります。これらを連携して取り組むことで企業価値の向上が期待されます。
人的資本経営とは
人材は、これまで「人的資源(Human Resource)」と捉えられていました。資源であるため「既に持っているものを使う、今あるものを消費する」ことが有効であり、人材に投じる資金も「費用(コスト)」として捉えられていました。一方、人材を「人的資本(Human Capital)」として捉えれば、「状況に応じて確保すべきもの」であり、その価値は変動します。従って、人材に投じる資金は価値創造に向けた「投資」となり、人材の確保・育成に資金を投じ、それ以上のリターンを得ることが期待されます。当然、内部で保有しているものを活用するだけでなく、外部から登用・確保することも視野に入れることとなるでしょう(図1)。
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このような考えに基づいて、経済産業省は、『持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~』(2020年9月)および『人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0』(2022年5月)を発行し、「人的資本経営とは、人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」と定義しています。
なぜ人的資本経営が注目されているのか
企業経営にとって人事・人材戦略は以前より重要事項の一つであり、なぜ今さら人的資本経営が注目されているのかが理解できないという声も聞かれます。しかし、昨今人的資本経営の重要性が叫ばれている背景には、企業を取り巻くさまざまな課題や時代の潮流が存在しています。
まず、世界的な動きとしてESG(環境・社会・ガバナンス)や持続的な社会づくりへの関心が高まり、株主資本主義からステークホルダー資本主義へとシフトしていることが挙げられます。それにより企業価値の源泉が、財務資本から非財務資本へと移行し、投資家の投資判断においても、非財務資本の評価を重視する傾向が顕著となっています。また、ビジネス環境の変化が著しい現代においては、イノベーションの創出がますます重要になり、新規事業の創出には創造的に働ける環境の整備も必要となっています。
また、日本固有の背景も存在します。その一つは、DXを含む広範かつ抜本的な企業変革の推進において日本が他国に比べて大きな遅れを取っており、高度成長期に形成された日本的経営が変革を阻害しているという点です。また、国土が狭く、天然資源を豊富に持たない日本においては、無形の非財務資産である人的資本が数少ない競争優位の源泉となることです。さらに、人口減少・少子高齢化によって予想される労働人口の減少から、一人一人の人材の重要性が高まり、多様性や従業員エンゲージメントを重視しなければ人材が確保できなくなることも危惧されているのです(図2)。
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