メガバンクの勘定系システムがクラウドへ移行することはあり得るのか。メガバンクの一つであるみずほ銀行の副CIO(最高情報責任者)に聞くことができたので、本稿では同行の取り組みとともにクラウド移行に向けた見解を紹介し、その背景や可能性について探ってみたい。
みずほ銀行が勘定系の一部にAWSを適用
メガバンクの勘定系システムは、企業が使用する情報システムの中でも最も巨大でミッションクリティカルな上、リアルタイム処理が要求される。最近になって地方銀行の勘定系システムがクラウドへ移行したケースが出てきたが、規模においてケタが違うメガバンクの勘定系システムが全面的にクラウドへ移行することはあり得るのか。
このテーマについては本連載でもこれまで関連する動きがあるたびに取り上げてきたが、アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWSジャパン)が先頃、金融分野向けの事業戦略について開いた記者説明会で、登壇したみずほ銀行の副CIOにズバリ聞くことができたので、改めて話題に上げたい。

写真1:みずほFG 執行役員 グループ副CIO 兼 みずほ銀行 執行役員 副CIOの山本健文氏
話が聞けたのは、みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)執行役員 グループ副CIO 兼 みずほ銀行 執行役員 副CIOの山本健文氏。AWSのクラウドサービスを勘定系以外のシステムに導入してきた経緯があることから、今回の会見のスピーカーとしてみずほ銀行でのこれまでとこれからの取り組みについて説明した(写真1)。
山本氏はまず、銀行のデジタル化の変遷と、その中でのみずほ銀行の取り組みについて、図1を示しながら説明した。

図1:銀行のデジタル化の変遷とみずほ銀行の取り組み(出典:AWSジャパンの会見でのみずほFGの資料)
銀行のデジタルトランスフォーメーション(DX)については、かつての伝統的な銀行ビジネスから2000年代に入ってDXが始動し、2020年代になってデジタルサービスが相次いで登場。今後は金融プラットフォーマーとしての役割を担っていく構えだ。
その中でのみずほ銀行の取り組みについては、かつての都市銀行である第一勧業銀行と富士銀行、政府系の日本興業銀行の3行が2002年に統合し、みずほFGの勘定系システムとして「MINORI」が2019年に稼働した。山本氏はこの間について、「3行を統合して以降、みずほと言えばシステム障害ということで三度にわたる大規模な障害を起こしてしまい、皆さまに多大なるご心配とご迷惑をおかけした」と述べ、「その経緯についてはここでは割愛させていただいて、この後はAWSとの関係について説明したい」と続けた。
確かにみずほの情報システムと言えばシステム障害の話が避けて通れないが、本稿でも同氏のコメントのみにとどめて、AWSとの関係に話を戻すと、みずほとしては2019年に本格的な利用を開始し、今では市場系、国際系、チャネル系、情報系など200以上のシステムでAWSを利用しているという。同氏によると、「みずほの情報システム部門に所属する約4000人のうち、約1300人がAWSの資格を保有している」とのことだ。
みずほFGがMINORIの目的として掲げたのは、「『新しい金融』を支えるプラットフォームへの変革の実現」だ。そのポイントとしては、図2に示した6つが挙げられる。山本氏は「DXの観点で言うと『レガシーからの脱却』が大きなポイントだ」と語った。

図2:MINORIの目的とポイント出典:AWSジャパンの会見でのみずほFGの資料)
MINORIのシステム概要は、図3の通りである。

図3:MINORIのシステム概要(出典:AWSジャパンの会見でのみずほFGの資料)
この図のポイントは、勘定系システム(図中では「基幹システム」と表記)としてメインフレーム系とオープン系のハイブリッド基盤になっていることである。
さらに、山本氏は新たな取り組みとして、2024年から勘定系システムの一部機能や開発環境をAWSに移行していることを明かした。図4における赤色の部分がAWSに移行中のコンポーネントである。

図4:勘定系システムの一部へAWS適用(出典:AWSジャパンの会見でのみずほFGの資料)
同氏はAWSのクラウドを利用すると決めた理由について、「レジリエンスの向上」「メンタルモデルの転換」「外部リソースの活用」の3つを挙げた。特に2つ目のメンタルモデルの転換は、すなわち「障害は起きることを前提とする」という、銀行の勘定系システムではこれまでなかった考え方だ。そこで重要なのが1つ目の「レジリエンス」だ。クラウドによってこれらをセットで取り組むということだろう。
さて、勘定系システムについて一部はクラウドへ移行し始めたとのことだが、全面的な移行はあり得るのか。あり得るとしたら、いつ頃か。会見の質疑応答でズバリ聞いてみた。果たして、山本氏は何と答えたのか。