日立、「デジタルセントリック企業」に変革--新経営計画「Inspire 2027」で宣言

大河原克行

2025-04-30 12:34

 日立製作所が発表した新たな経営計画「Inspire 2027」は、「Lumada」を軸とし、日立が「デジタルセントリック企業」に変革することを宣言するものになった。

 4月1日付で、社長 兼 最高経営責任者(CEO)に就任した徳(漢字は旧漢字)永俊昭氏は、Inspire 2027の経営指標として、2027年度までに売上収益を年平均成長率で7~9%、Adjusted EBITA(調整後営業利益-買収に伴う無形資産などの償却費)では同13~15%を打ち出したほか、キャッシュフローコンバージョンでは2027年度に90%超、投下資本利益(ROIC)では12~13%の水準を目指すことを公表。さらに、2027年度には、Lumadaの売上収益比率を50%、Adjusted EBITA率では18%を目指す目標も明らかにした。

日立製作所 社長 兼 最高経営責任者(CEO)の徳永俊昭氏
日立製作所 社長 兼 最高経営責任者(CEO)の徳永俊昭氏

 だが、徳永社長 兼 CEOは、さらに驚くべき数字を発表した。それは「Lumada 80-20(エイティ・トゥエンティ)」である。

 Inspire 2027で打ち出した2027年度のLumadaの売上収益比率と、Adjusted EBITA率をさらに高め、「目指す水準」として、Lumadaの売上収益比率を80%、Adjusted EBITA率では20%を目標に設定したのだ。

経営の長期目標「目指す水準」を新たに設定
経営の長期目標「目指す水準」を新たに設定

 徳永社長 兼 CEOは、「デジタルセントリック企業への変革を実現するという揺るぎない決意を示すため、意欲的な長期目標として、Lumada 80-20を掲げた。Inspire 2027により、経営を進化させ、持続的成長を実現し、日立を次のステージに引き上げる」と語る。

 Inspire 2027で目指す財務KPI
Inspire 2027で目指す財務KPI

 つまり、「日立はなんの会社か?」と問われれば、それは「Lumadaの会社である」という姿が、これからの常識になるというわけだ。

 徳永社長 兼 CEOは、「今後も、Lumadaに注力し、Lumadaの成長によって、日立全体が成長していく姿に変わりはない。一方で、成長性や収益性向上が見込めないノンLumada事業については、領域を選ばずに、着実に対応していくことになる。継続的なLumadaへの投資強化と、事業ポートフォリオ改革を進める」と断言する。

 この点からも、Inspire 2027は、日立がLumadaの会社になるための経営計画であることが分かる。

 併せて打ち出したのが、「Lumada 3.0」だ。

 Inspire 2027で目指す姿
Inspire 2027で目指す姿

 Lumadaは、2016年に登場した際には、IoTプラットフォームと位置付けられ、顧客の業務を、データドリブンの考え方で進化させる役割を担ってきた。顧客が持つデータに光を当て、輝かせることで、顧客の経営課題を解決することを目指したものであった。これがLumada 1.0である。

 Lumada 1.0を進化させたのが、2021年に買収した米GlobalLogicである。同社が持つデジタルエンジニアリングの力を活用し、顧客のバリューチェーン全体を、デジタルによって進化させるという変革を進めてきた。Lumada 2.0といえるフェーズだ。

 そして、Inspire 2027において、新たに打ち出したLumada 3.0は、日立が実施してきた大胆な事業ポートフォリオ改革によって得られた「デジタルケイパビリティ」「ドメインナレッジ」「インストールベース」を活用。さらに、日立のドメインナレッジによって強化したAIを活用することで、社会インフラのトランスフォームに取り組むことになる。

 Lumada 3.0への進化
Lumada 3.0への進化

 企業個別の課題解決から、バリューチェーンの課題解決へと発展し、それを社会インフラの課題解決へと広げたのがLumada 3.0である。そして、IoTからデジタルエンジニアリングへと幅を広げ、そこにナレッジドメインの活用と共に、AIの活用を本格化させたのがLumada 3.0となる。

 AIは、Lumada 3.0には欠かすことができないテクノロジーだ。

「HMAX」は鉄道以外にも展開

 「これまで、Lumadaをスケールさせるためには、幾つか課題があった。だが、生成AIの登場でかなり乗り越えられるようになってきた。鉄道向けAIソリューション群『HMAX』では、AIがドメインナレッジを学習し、資産の効率的な利用や運用の高度化ができるようになっている。これからは、HMAXをほかの業態にも展開し、Lumadaをスケールさせることができるようになる」

 HMAXは、NVIDIA AI テクノロジーを活用し、日立が持つ鉄道に関するドメインナレッジとAIを組み合わせることで、車両、信号、鉄道運行状況などの稼働データをリアルタイムで収集、分析。鉄道インフラの資産効率を高めることができるのが特徴だ。

 具体的には、車両にセンサーを設置し、走行中の車両からリアルタイムにデータを収集し、HMAXインフラ監視プラットフォームに集約。車両部品の性能や、台車と輪軸の状態、軌道の状態などをリアルタイムで把握することで、メンテナンスに関わる問題を早期に特定して、最適なタイミングでの保守を提案することができる。従来は、部品の定期点検や定期交換を行っていた鉄道会社が、HMAXによって、定期点検が不要になり、必要なタイミングで部品を交換できるため、安全性の向上と共に、部品寿命を延ばすことにもつながっている。今後は、リアルタイムデータの活用により、最適な運転速度を判断し、それを日々の運転に反映させるといった活用も想定している。

鉄道におけるLumada 3.0
鉄道におけるLumada 3.0

 既に、全世界で8000両の鉄道車両にHMAXが適用されており、保守コストを15%低減し、列車遅延を20%削減するといった成果が生まれているという。

 さらに、徳永社長 兼 CEOが触れたように、HMAXを、鉄道向けにとどまらず、他の業種にも展開する考えを示す。これも、Lumada 3.0を実現する重要な要素となる。

 HMAXをベースに、エネルギー分野向けの「HMAX for Energy」、インダストリー分野向けの「HMAX for Industry」として、他業種にも展開することを計画。さらに、他社のインストールベースにもHMAXを展開するといった提案も進めていく。既に欧州では他社の鉄道車両にもHMAXを適用している例があるという。

 徳永社長 兼 CEOが、「HMAXは、Lumada 3.0の好事例」と位置付けるのも、日立が持つドメインナレッジを活用したAIにより、社会インフラの課題を解決していること、さらに、日立が持つインストールベースを基に、複数の業種への展開や、他社へのインストールに向けた展開を行い、Lumadaをスケールしている点が見逃せない。

 今後は、ドメインナレッジを学習した特化型大規模言語モデル(LLM)の開発や、他社インストールベースへのインターフェース強化などを進め、Lumada 3.0の世界を加速することになるという。

 Lumada 3.0による事業拡大
Lumada 3.0による事業拡大

 「デジタルシステム&サービス(DSS)セクターが、全社のLumada事業をけん引することになるが、『エナジーセクター』『モビリティセクター』『コネクティブインダストリーズセクター』においても、Lumadaを核に、事業成長戦略を立案。GlobalLogicが、各セクターとのタイトな連携によってAIの実装を進めるほか、HMAXを他の業種にも横展開していくことになる。エネルギー、鉄道、インダストリーのインストールベースが、データを生み出す源泉であるのと同時に、価値を生み出す資産となる。それがLumada 3.0のポイントになる」と語る。

 Inspire 2027の初年度となる2025年のLumadaの売上収益は前年比28%増の3兆9000億円と高い成長を見込み、全社売上収益に占める割合は38%にまで拡大させる計画だ。また、Adjusted EBITA率は16%を目指す。Lumadaの売上収益の内訳は、デジタルサービスが前年比28.1%増の1兆8000億円、デジタライズドアセットが同30.0%増の2兆1000億円としている。

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