「データとビジネス、IT部門とビジネス部門のそれぞれを橋渡しするサービスを提供する」――。そんな思いで、パタンナー 代表取締役の深野嗣氏は2021年5月に同社を立ち上げ、企業内のデータを整理し、活用しやすくするデータ管理の開発とデータカタログ作りに取りかかった。
単にデータ管理のプロダクトを開発、販売するのではなく、ユーザー企業と一緒にデータを整備していくのが同社の特徴という。有力ソフトウェアベンダーがひしめくデータ管理/データカタログの市場で、同社はどう勝ち抜くのだろう。

パタンナー 代表取締役の深野嗣氏
深野氏は大学卒業後に船井総合研究所に入社し、経営コンサルティングの業務に携わる。その後、人材紹介業でウェブエンジニア、AIベンチャーでデータサイエンティストとして、データ活用基盤の構築などのプロジェクトに従事する。しかし同氏は、「『Python』などの言語を使って、北米のライブラリーを組み合わせて、AIを納品する仕事に違和感を覚えるようになった」と言う。データサイエンティストや機械学習(ML)エンジニアは周りからみると“カッコいい”仕事に見えただろうが、「私にはコピー&ペーストのように感じてしまった」と振り返る。
そんな中、中国との厳しい競争を展開する大手製造業のデータ活用基盤構築などのプロジェクトに携わった深野氏は「中国に負けない」という熱い気持ちを持つエンジニアらを知った。過去の成功体験に固執し、変革を必要としないのが大企業というイメージだったが、最前線で働く人たちの情熱を感じ、「ものづくりをしたい」と思ったという。そこで、同氏は何ができるかを考えるために、データ管理やビジネスインテリジェンス(BI)などのソフトウェアを開発する米スタートアップを2020年1月に訪問し、「どんなものが流行り、売れるのか。さらにどんなものなら勝てるか」を、最先端市場から探った。
その結果、データ管理にたどり着いた。深野氏は「データベースのエンジニアではないので、データベースは無理だった。また、AIの開発には膨大な資金がいる。(データ管理であれば)私のノウハウを生かし、限られた資金で日本発の価値のあるものを提供できる」と思ったからだと説明する。経営企画など、データをビジネスに活用する部門からの仕事を請け負う深野氏は、ビジネス部門とIT部門の間に立って両者の意見を聞きながらシステム開発を進めてきた。「部署横断の仕事をして分かったのは、データ活用は技術レベルより、チームワークが大切ということ」と語る。ビジネス部門はエンジニアの気持ちを理解し、エンジニアはビジネス部門が分かるように説明する。両者が歩み寄ると、うまくいくということだ。
深野氏はまず、データ検索プロダクトを開発する。これは、「(IT部門とビジネス部門が)円滑に連携するためのツールだが、どのカテゴリーに入るプロダクトか明確に説明できなかった」。そこで、データ分析などの受託開発を強化し、エンジニアの採用を含めた開発資金を集め、セルフサービスデータマネジメントに分類される「タヅナ」の開発に着手した。
一部の人が使うためのツールではなく、誰もが使えるようにするため、タヅナではビジネス部門もデータの中身が分かるように専門家やAIがデータの内容を修正したり、追加したりできる。誰が追加したのかも分かるため、どの人がどのデータについて深い知識があるのか、つまり「この問題を解決するには、この人に聞けばいい」といったことも分かる。同ツールは2024年3月に提供を開始している。
データ管理の目的は他にもある。1つはシステム刷新だ。どのデータをクラウドに移し、保存するかを決めるのに役立つ。もう1つはデータの品質にある。使うデータが正しいかどうかだ。何から作られたデータなのか、どのようなデータを使っているのかを明らかにする。
深野氏によると、例えば「YouTube」のあるチャネルの登録者数が20万人と書かれていても、信じられる数字なのか、そもそも本当の数字なのか、データカタログを作るエンジニアらにとっては情報源も分からないだろう。しかし、市場動向を把握する社内のマーケターらはその数字の出所や意味を知っている。つまり、データ整備には両者の協力が欠かせないということだ。例えば、個人情報の取り扱いについて、「この場合には使えない」などと、データを使いたいビジネス部門が分かるようデータを整備する上でも両者の協力が必要だ。
一方でデータ管理のエンジニアが不足している。しかもデータ管理の予算を確保するユーザー企業は極めて少ない。「データ管理は金食い虫」(深野氏)でもある。にもかかわらずデータ管理が無くてもビジネスはできてしまう。そこを突破するには、売上増につながる成功事例を作り、「データ管理はもうかる」ということをユーザーに示すことが肝要だ。同氏は「データ管理の必要性を説くセミナーは数多くあるが、『こんな良いことがある』といったセミナーはほとんどない」という。2025年末までにこうした成功事例を用意し、「ユーザーにデータ管理をやらなければならない」と思ってもらえるようにすることが目標だ。
有力ソフトウェアベンダーが参入するなど、データ管理とデータカタログの潜在需要は大きい。その一方、データのルールなどデータ管理のノウハウを持つソフトベンダーは少ない。そこに、「成功事例」と「こんなものが欲しい」といったユーザーの要求に応えることで、深野氏は大きなチャンスをつかみとろうとする。

- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。