コミュニケーションのための標準確立は永遠の課題
旭化成が、システム子会社と現場担当者に求めるスキルを明確に分けているのは、その方がコミュニケーション効率が上がると判断してのことだ。
確かに「エンドユーザーとの意思疎通がうまくいかず、誤解もあって仕様がなかなか固まらない」といった不満を持つIT担当者は多い。
そうした原因として、ツールの問題があるのではないかと、近年指摘されている。口頭での情報交換では間違いが多いため、大半の企業ではなるべくドキュメントの形で打ち合わせ内容を残すよう、心がけている。
また誤解や漏れを防ぐため、モデリングツールなどを利用して業務プロセスやデータフローを視覚的に表現し、業務部門とIT部門の間の情報伝達ロスを最小化しようとする企業もある。
そしてUMLなどの登場で、表記法やツールの標準化が進んだことにより、「いくつかの標準を覚えれば、ユーザーとIT担当者が同じ目線で会話ができるのでは」と期待する声もある。
だが井上センター長は、「以前は、標準的なコミュニケーションツールがそのうち登場するのではないかと期待しました。しかし最近では、それは『無い物ねだり』ではないかと思うようになりました」と言う。
機械の設計なら、仕様書に記入する内容を統一することは比較的簡単だ。たとえば、ある機能を利用するにはバルブを30度回すといった具合に、対象と動作を明確化できる。だたけれどもシステムの仕様を記述するには、「バルブをどうやって回すかという所から説明する必要があります」(同)というのだ。
「確かにER図やUML図などは、共通のドキュメントとして有効です。しかし万全ではありません。それを覚えたら、複数のベンダいずれと話をしても通じるというわけではないでしょう」(同)。
ユーザーが頑張って勉強するよりは、言葉でのコミュニケーションの方が効率的というわけだ。
井上センター長は、「IT部門担当者はどうしても交渉力が弱く、現場担当者に押し切られてしまうケースが多々あります」と見る。無理な仕様やスケジュールを引き受けてしまったり、現場にすり寄った仕様とするなど、受け身体質は根強いものがある。
そうした体質から脱却し、真の全体最適のシステムを作り上げるには、業務担当者がITを理解するのではなく、IT部門担当者が現場に積極的に働きかけ、説明や提案をしていく必要があると言う。